耽美でエロいけれど常識人!? 中毒性がある谷崎潤一郎の世界をコミカライズ!

文芸・カルチャー

2016/12/14

 谷崎潤一郎の生誕130年を記念して、『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』(中央公論新社)が発売され、刊行記念トークイベントが11月18日(金)、東京・読売新聞東京本社にて開催された。

 本書のサブタイトルにもなっている『マンガアンソロジー』。11名の豪華作家たちが名を連ね、谷崎潤一郎の作品をそれぞれの視点や解釈を踏まえ、マンガで再現した。今回は、執筆に参加した11名のうち、画家・山口晃とアニメ、マンガ、ドローイングなど多岐に渡る分野で作品を発表しているアーティスト・近藤聡乃の2名が登壇。谷崎ファンをはじめ、山口、近藤両氏のファンが固唾を呑むなか、谷崎作品の第一印象を聞かれた両氏の感想は…。

「今まで谷崎作品にはほとんど触れてこなかったんです。教科書で『陰翳礼讃』を読んだくらい。耽美でエロという認識はありましたけど、噂で聞いている以上に(谷崎は)常識人。常識の範囲でイッちゃってるから、妙な中毒性がある(山口)」。

 現在ニューヨークに暮らしている近藤は「今、英語に囲まれて生活しているので、本来日本語を読むのは楽しいはずなのに、谷崎の作品はどれも好きになれなかった。ただ、その中で『夢の浮橋』は好きになれたんです」と語る。

 『夢の浮橋』の原作を読んだという山口は、原作と近藤作品の視点の違いに触れ、「ビックリした。原作は、実母と死に別れた男性(※糺(ただす))が主人公だけれど、近藤さんの作品は、継母の視点で描かれている」と近藤の発想力を絶賛。近藤自身も「最近、20歳年上の男性と結婚して連れ子の継母になったんですが、その影響もあって、糺ではなく、継母に焦点を当てたのかも」と心中を語った。

山口が描いた『台所太平記』については、実は、近藤が推したという。作品の魅力を聞かれた山口は、「下品にドタバタしてなくて、ほのぼのする。少し哀愁というか寂しさを漂わせつつ、笑いあり、ほのぼのした作品」と評した。

しかし、今回が本格的なマンガ執筆の初挑戦となった山口にとって、制作過程は前途多難だったようだ。イベント冒頭、司会者が挨拶代わりに“締め切り”に触れ、「原稿を依頼したのは同じ頃なのに…」と笑いを誘ったが、山口の筆が思うように進まなかったのは、「マンガの描き方の難しさ」にあったようだ。

「原作にはマンガに登場していないキャラクターもあるので、どのキャラクターを活かしてどのキャラクターを削るかは、やはりそれぞれの登場人物が持つエピソードで選びました。(原作と違うという近藤氏の指摘に対して)文字数を削るために、「川底に沈んだ陶器の欠片で額を打ちつけて…」を「川底で額を打ちつけて…」と若干表現を変えてみたり…。あと、ネーム(※コマ割り)ができない。どこを切り取ってどう描いていいのかわからない。結局ネームはあきらめました(山口)」

しかし、山口の作品を読んだ司会者が、「作品すべてをいったん自分の体に吸収し、みごとに山口さん自身の表現に変えている。谷崎へのリスペクトを深く感じました」と述べると、照れながらも「もっと言ってください」と賛辞を促し、会場の笑いを誘った。

また、山口・近藤ともに自作の創作過程において“ペン入れ”は欠かせないが、最小限の下描きにペン入れをする山口に対して、近藤が「すばらしい。私には無理です」と賞賛を送ると、山口は「NHKの『浦沢直樹の漫勉』見てビックリしたんですよ。マンガ家のみなさんは下描きが丁寧で細かいので『もう、それ出せばいいじゃん!』って。自分は、和紙に描いたりするので、紙に描くように下描きはできないんです」と互いの相違を語った。

最後は、参加者からの質問コーナーが設けられたが、「山口さん、ご自身の個展(市谷のMizuma Art Galleryにて12/17まで開催中)の作品はいつ完成するんですか?」の問いに、会場は大きな笑いに包まれ、ファンの熱気が冷めやらぬなか、山口、近藤の両者は会場を後にした。

なお、本作の刊行を記念した原画展が、12月8日から12月25日まで荻窪・titleにて開催されている。(詳細は各書店のHPを参照のこと)。11名の作品が一堂に会する貴重なチャンス、ぜひ足を運んでみては。

【書籍情報】

文=金本真季