『あさイチ』でお馴染み・小堺翔太の読書術とは? 「悩みどころ」多き『教団X』の主人公を熱演!

文芸・カルチャー

2017/2/3

 わたしたちの誰もが持っている心の弱さ。それに付け入るかのようにやってくるさまざまな誘惑。ときにはそれが良くないものだとわかっていても流されてしまうこともある。

 そんな運命に翻弄されるのが「楢崎透」。新潮新人賞、芥川賞など数々の受賞歴のある中村文則が“絶対的な闇”“圧倒的な光”を描く『教団X』の主人公だ。

 そして今回、オーディオブック版『教団X』の楢崎透を熱演しているのが、NHKの情報番組『あさイチ』のリポーターとしてすっかりお茶の間の顔になっている小堺翔太さん。“爽やか”“朗らか”な印象を与える“好青年”小堺さんが光と闇の間で揺れ動く役とどのように出会ったか、収録時のエピソードや書物との関わりについて聞いた。

にじみ出る人間性の良さが主人公にマッチ

――小堺さんといえば、情報番組のリポーターとして、また『中央競馬全レース中継』のキャスターとして、いってみれば演技と無関係なところでのお仕事が多いように感じます。オーディオブックへのご出演ははじめてですよね。

小堺翔太さん(以下 小堺):なのでお話を頂いてびっくりしました。以前、声優のように朗読する、というお仕事をしたことはあったんですが。

――『教団X』の主人公 楢崎透は、愛する女性を探すために2つの組織の間を行ったり来たりしており、特に序盤ではカルト教団内で言われるまま快楽に身を委ねる姿が印象的です。「えっ? 小堺翔太さんがこんな役を?」とわたしも驚いたんですが、どういう経緯で小堺さんに依頼されたのでしょうか。

伊藤誠敏プロデューサー(以下 伊藤):制作スタッフが『教団X』のオーディオブック化に際して演者を探していたときに、『あさイチ』のリポーターとして出演されている小堺さんはどうか、と言ってきたのです。

 楢崎は堕ちてしまうこともありますが、彼の願いはあくまでも愛する女性を探し出すこと。その過程で振り回されがちな主体性のあまりない人物です。いってみればどこにでもいるような普通の男性。でも基本は誠実で穏やかな好青年なんです。そういうところが小堺さんにマッチしていました。

 それに声も良く、雰囲気もピッタリ。穏やかな聞きやすい声ですし、人間性がにじみ出ています。

――確かに、小堺さんはTVで拝見しているときだけではなく、こうやってお話ししていても誠実なお人柄がにじみ出ています。いうなれば「THE 好青年」ですよね。

孤独な収録部屋で頭を抱える

――ところで、『教団X』の書籍は576ページとかなりの長編ですよね。収録は大変ではありませんでしたか。

小堺:収録は1日で終わりました。自分のセリフの部分だけだったので。

――つまり掛け合いなしで録音されていたということですか。時間は短くて済みますが、逆に難しそうですね。

小堺:そうなんです。録音室って、あたりまえなんですが無音なんですよね。その空間に机と椅子、そしてマイクがあるだけ。イヤホンからは「ちょっと明るすぎるかな」とか「そこは悲壮感を出して」などといった指示をしていただくのですが、室内には自分ひとりだけなので、どう変化をつければいいのかなど誰かに相談するわけにもいかず「うぅ~」と頭を抱えてしまいました。

 ほかのキャストの方のセリフを聞けないのも大変でしたね。「ここでこの役はこんなテンションで話すんじゃないか」「ここはどんな間合いなんだろう」など想像しながらでしたから。

 もう1つあります。それは、普段のリポーターやキャスターとしての仕事では自分を出す、ということはありえないことなんですが、オーディオブックでは役を演じなければいけない。感情を出さないといけないわけですよね。「自分」ではないんですが、役になりきった自分を出して読む、というのはいつもと違うことのため収録の最初のうちは苦労しました。

じっくりと物語に入り込むスタイルの読書形態

――「本」に関連したこともお聞きしたいのですが、小堺さんご自身、読書はお好きでしたか。

小堺:そうですね、父親(小堺一機さん)の本が家にたくさんあったため、本に囲まれて育ちましたし、とりあえず、目にしたものを開いていっては、興味があるものを次々に読んでいました。開いてみてもピンとこなければ書棚に戻してしまいましたが。

――小学校などに図書室がありましたよね。小堺さんも利用されたことはありますか。

小堺:利用していましたねぇ。子どものころって影響も受けやすかったじゃないですか(笑)。「だれそれ君、かっこいいよなぁ。彼、いつも『シャーロック・ホームズ』シリーズ読んでいるよなぁ」と思うとそれを借りてきて読んだりとか。飽きたら別のシリーズを借りまくったりもして。興味があちこちに飛んだ記憶があります。

――活字を読むのに抵抗がなかった、ということなんですね。

小堺:ありませんでしたね。ただ、読書家のかたって、週に7冊、8冊は平気で読まれますが、ぼくは多くても3~4冊。読むペースがゆっくりなんですよね。活字を追うだけでなく、物語の世界に浸ってしまう。主人公の気持ちを考えてしまう。ものすごく考えて、納得しないと先に進めない。面倒くさい読み方をしているみたいです。

――興味があちこちに飛ぶ、とのことですが、よく読まれるジャンルを教えていただいてもいいですか。

小堺:仕事柄、タレントさんのエッセイをよく読みますね。自伝とか。小説よりリアルが好きかもしれません。仕事で落ち込んだとき、壁にぶち当たったときにどう感じ、どう乗り越えていったか、というのは勉強になります。

 先日、30歳になったばかりなんですが、がむしゃらにやりたいことをやっていた20代と違い、「一人前」として見られる。これまで一人前として仕事をされてきた先輩たちの生の声は重みがありますよね。

 全く小説を読まないか、というとそうでもなく、『桐島、部活やめるってよ』や『何者』『世にも奇妙な君物語』など朝井リョウさんの作品はかなり読んでいますね。フィクションなのに、妙にリアルなんです。

 『桐島、部活やめるってよ』では自分も含め、さまざまなタイプの人物が登場するから、読者はそのうちのだれかに自分を投影できる。読み進めるうちに穏やかな「うぉっ!」という感覚を覚えます。『何者』はSNSと心理的に追い詰められる就活を軸とした物語で、ゾッとして「うぉっ!」となりました。

 ありえそうなことを小説に落とし込めている朝井リョウさんは、身の回りのことをよく観察されているんだろうなぁ……と思いますね。

「だれかを光らせる側にまわりたい」

――オーディオブックでは演技が求められますし、大河ドラマ(『軍師官兵衛』織田信長の次男・信雄役)にも出演されました。とはいえ、アナウンサーとしての学校に通われ、現在のお仕事もリポーターやキャスターなど裏方という印象です。

小堺:実は、大学時代には放送部に入っており、コミュニティFMでラジオ(番組)を作ったり、ミスコンの司会をしたりしていた経験があるんです。家ではよく見ていましたし、小さいときからTVが大好きだったんですよね。でも、大学時代に楽しかったのは、自分が目立つことより、だれかにスポットを当てて輝かせているとき。それが今のお仕事につながったのかな、と感じています。

――最後に、ダ・ヴィンチニュース読者にメッセージをお願いします。

小堺:『教団X』は悩みを感じつつ読むタイプの作品ですが、音として耳から物語が入ると、目で読むより悩みの感じかたも増しますし、別の楽しみが見つかると思います。また、全体を重厚なものに仕上げている銀河万丈さんのナレーションも必聴です。

 主人公の楢崎は、流されまくっていろんな行動をとります。聞きながら「こいつ、もっとなんとかしろよ」と感じていただけたら本望です。そして登場人物たちについてもちょっと極端ではありますが「ああ、こういう人、いるいる」と思いながら、この世界に浸っていただけたらな、と思います。

――どうもありがとうございました。

取材・文=渡辺まりか