『一億総貧困時代』―虐待、奨学金、介護離職、ブラック企業…。今、日本で起こっている「貧困」問題とは?【著者インタビュー】

社会

2017/2/24

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    『一億総貧困時代』(雨宮処凛/集英社インターナショナル)

 雨宮処凛さんは貧困問題に取り組む「反貧困ネットワーク」世話人で、若者の「生きづらさ」への取材や支援を続けてきた。昨年末は炊き出しやシェルター提供の現場を手伝い、路上生活者に寄り添いながら年越しをしたという。そんな雨宮さんが「貧困」をテーマに出会った人たちのことをまとめた、『一億総貧困時代』(雨宮処凛/集英社インターナショナル)が発売された。

 しかし身も蓋もないタイトルだ。『一億総貧困時代』と言われたら、自分もそこにいるのかと暗澹たる気持ちになってしまう。確かに2016年に発表された「国民生活基礎調査」では、6割の世帯が「生活が苦しい」と答えている。また厚生労働省の調査では、6人に1人の子どもが貧困にさらされていることもわかっている。しかしつい先日も都内のデパートでは、バレンタインデーのために5000円以上するチョコレートを買い求める列ができていたし、街に出れば高級車を見ない日はない。それでもやはり『一億総貧困時代』なのだろうか? 雨宮さんに直撃した。

    著者:雨宮処凛さん

雨宮処凛さん(以下、雨宮)「確かに10年前だったら貧困は、一部の不運な人の話で片づけられたと思います。それこそ『生きさせろ! 難民化する若者たち』(筑摩書房)という本を書いた2007年頃はまだ、この社会はどこか他人事のように受け止めていました。しかし今や壮年男性が介護離職を経て路上生活者になったり、若者がブラック企業に就職してうつになり退職に追い込まれたり、学費を負担する余裕がない家庭の大学生が奨学金に頼らざるをえなかったりと、どんな人でもちょっとしたきっかけで貧困に陥る可能性が出てきました。原発事故や震災で住む場所をなくして、貧困にさらされた人もいます。誰もが今は困っていなくても、この先何が起こるかわからない。だから一億総活躍時代どころか一億総貧困時代が来るのではないかと思ったので、このタイトルにしました」

 この本には「利根川一家心中事件」や、アリさんマークの引越社を提訴した同社社員の西村有さんなど、既に複数のメディアで取り上げられた事件や人物も紹介されているが、ほかにも違うバックグラウンドを持った人たちが登場する。未成年の頃から父親に性的虐待を受けていて、父親との間にできた子どもを出産。路上で売春をして生活していた「優子さん」や、デパートを親の介護のために辞め、54歳で路上生活者になった「高野さん」、福島から自主避難したことで「勝手に避難したから」と、公的支援を得られない「鴨下夫婦」など、世代や境遇は違うのに、描かれた誰もが貧困というキーワードで結びついている。

雨宮「皆さん、ありとあらゆるルートを経て貧困にたどり着いてしまったという感じです。でも決して特殊なケースではないんです。たとえば今、42歳の私と同年代で実家暮らしの人のほとんどが、近く親の介護問題に直面すると思います。それを機に貧困に陥るのは、珍しい話ではありません。

 未だに貧困と聞いて『怠けてる』とか『仕事を選んでる』などのイメージを持つ人もいますが、それは『貧困は自己責任だ』と思うことで、心の平穏を保ちたいからだと思っています。貧困を『自業自得』とか『関係ない』という人の気持ちもわかります。だって貧困のキツすぎる現実を拒絶して見ないようにすれば、その場はやり過ごせますから。でもこの本に登場する人たちが無事に生きられるなら、自分だって無事に生きられるはず。それに必死に他人を蹴落とす社会よりもどうなっても助けてもらえる社会の方が、はるかに健全なのではないかと思うんですよね」

 在日外国人の相談業務や日本語学習支援などをおこなう「ふじみの国際交流センター」の石井ナナヱさんや、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の雇用創出をサポートする、日本ALS協会理事の川口有美子さんなど、支援する側の人たちも紹介されている。彼女たちを通して雨宮さんは、支援と繋がる大切さを訴えているのだ。

雨宮「路上にいてもイザという時に助けてくれる人の存在があれば、絶望だけではなくなりますよね。民間ボランティアがそれこそ正月返上で支援しているのを見ると、まだまだ世界は捨てたもんじゃないなと思いますし。でも無給のボランティアが休み返上で走り回っていること自体には疑問があるので、もう少し行政も対応してくれればと思います」

 小田原市役所の生活保護受給担当の職員が“保護なめんな”と書いたジャンパーを着ていたことが、最近社会問題になった。もちろんこのような役所ばかりではないと思うが、生活保護受給者に対して、冷たくあしらうケースワーカーもいるのが実情だ。

雨宮「たとえば高野さんのように猫を飼っている路上生活者を見たら、支援団体は猫の大事さを理解してくれて生活保護を受けるにあたってペット可の物件を提示してくれるけど、役所は『手放してください』というのが一般的ですよね。そのまなざしの違いは大きいと思います。現行の制度でも行政は民間団体と同様、受給者の尊厳を傷つけない形の支援はできると思います。でも今の日本の貧しさに対する『恥ずかしさ』そのものを克服することは難しいかもしれません。日本は一億総中流の時代が長かったので、『頑張ればなんとかなる』という強固な思い込みが、とくに年配者にあるんですよね。でもグローバル化によって、頑張ればなんとかなる時代は終わったし、低所得の非正規雇用者を生み出す社会構造に変化しました。まさに貧困は自業自得ではなく、この社会構造のおかしさが原因です。それなのに『最低賃金をあげろ』と言う声に、経営者側に立って批判する労働者まで現れる始末で(苦笑)。未だにこんな話をしなくてはならない日本は、正直なところ民主主義的に未熟だと思います」

 雨宮さんはこの本を、あらゆる層のあらゆる世代に読んでほしいと願っている。そうすることで安心と、他者理解を得られるからだと語った。

雨宮「支援団体の情報がわかれば自分も安心できるけど、周りにいる人を助けられるかもしれない。また今の奨学金システムがわからないゆえに『国立大学に行けばいいのに』と言い放ってしまう人もいるので、それぞれの世代の現状を理解するのに役に立つと思います。今20代の人なら『お金がなくて友人の葬式に行けない』80代の生活保護の人に、悠々自適の年配者ならブラック企業の実態に衝撃を受けると思うので、貧困は世代も生きる場所も関係なくやってくることが理解できるし、『この人は甘えてる』といった気持ちもなくなるのではないかと思うんですよね」

取材・文=今井順梨