“匹”や“頭”など、動物の助数詞の意味とは?

文芸・カルチャー

2017/3/9

『日本の助数詞に親しむ――数える言葉の奥深さ――』(飯田朝子/東邦出版)

ものを数える時の言葉を、日本語では助数詞と呼ぶ。この助数詞だが、実はとても多様かつ複雑なのだ。例えば、動物を数える言葉は“一匹”がポピュラーだが“一頭”という数え方もあるし、ウサギは“一羽”と数える。昆虫の場合だと、こちらも基本的には“匹”なのだが、実験や研究の対象にする場合などには“個体”“生体”と数える事もあり、ホタルに限っては“蛍(けい)”と漢字表記そのままに数える事もあれば、その光る性質に注目した “灯(とう)”という数え方もある。同じ対象に対して複数の助数詞がある場合は、そのどれを使うかによって、対象のどこに注目しているかがわかりそうだ。このように、ものを数える言葉・助数詞を紹介しつつ、その助数詞が生まれた背景を探るのが『日本の助数詞に親しむ――数える言葉の奥深さ――』(飯田朝子/東邦出版)である。

動物の助数詞として代表的なのは、やはり“匹”と“頭”であろう。感覚的には、小さい動物を“匹”とし、大きめの動物を“頭”と数えている事が多いのではないだろうか。例えば、ネズミなどの小さい動物に対しては「ネズミが1匹居た」という言い方をするのに対して、レトリバー種の犬など大きめの動物に対しては「ゴールデンレトリバーを2頭見かけた」という言い方をする人が多いのではないか。もっとわかりやすく言えば、象を「1匹」と数える事と「1頭」と数える方のどちらがしっくりくるか、という事になる。

だが、このように動物の大きさによって用いる助数詞を区別するようになったのは、明治時代以降の話だ。江戸時代以前では、動物はその大きさにかかわらず“匹”で数えるのが一般的だった。つまり、この時代では大雑把に“人間”と“それ以外の動物”でしか助数詞は区別されておらず、クジラでさえ“匹”で数えていたのである。この“匹”という漢字は、2つのものが対になっている事を表している。この漢字を使う匹敵という言葉などは、2つのものが互角である事を意味しているものだろう。このいわゆるペアの意味を持つ漢字がなぜ生き物の数え方に広く用いられるようになったか、その理由には諸説があるが、一説では馬の尻が2つに割れているのを見て思い付いたのが始まりであるとされているようだ。そこから、やがて動物の体が左右対称(一対)になっている事に気付き、生物を数える言葉に相応しいものとして“匹”が定着したと言われている。

また、もうひとつの助数詞“頭”は、大きい動物に対して使われる傾向が強いと先述したが、人間の隣で仕事をしている動物も“頭”で数える傾向にある。例えば、警察犬・麻薬探知犬などはチワワなどの小型犬でも“頭”と数えるし、カイコは虫でありながら“頭”と数える。これは、カイコが出す絹糸が人間にとって製糸業を支える重要なものだからである。つまり、人間にとって特別な価値や存在意義がある動物(昆虫)は“匹”ではなく“頭”と数えるのだ。用いる助数詞によって、対象をどのように位置づけているかを我々は無意識に主張しているのかもしれない。

動物の助数詞について述べて来たが、その中でも例外的なものがウサギである。ウサギだけは、鳥類でもないのに鳥類を数える際に用いる助数詞“羽”を使って数えるのだ。ウサギを“羽”と数えるようになった理由にも諸説があり、ウサギの耳が鳥の羽のように見える為という説がある程度有名だろう。だが、ウサギを1羽2羽と数える習慣が古くからあったかと言えば、どうもそうではないらしい。

中世や近世に書かれた記述を読むと、これらにウサギを“羽”と数えたものはなく、あるのは“匹”や“耳”などを用いた記述のみだそうである。ウサギを“羽”と数えた記述の中でもっとも古いのは明治初期のものである。この時期に政府が出した飼いウサギに税金を課す文書にあるものがそうだ(当時はウサギ飼育ブームがあったらしい)。ウサギを“羽”と数えるのは、元はどこかの地方の方言だった可能性があり、もしかしたらこの公文書はその地方出身の役人が書いたものであり、それが全国に浸透した結果ウサギを“羽”と数える習慣が定着したのかもしれない。という事は、元々ウサギを“羽”と数える習慣がどこかの地方にあったことになる。ウサギの跳ねる姿が鳥の類に見えたのか、それとも本当に耳が羽に見えたのか……そこまでは定かではない。ウサギの助数詞の謎が解ける日は、未だ遠そうだ。

文=柚兎