非情な運命に見舞われた恋人たちの愛と別れを描く『桜のような僕の恋人』

文芸・カルチャー

2017/3/8


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『桜のような僕の恋人』(集英社)

テレビドラマ『スイッチガール』『主に泣いています』やドラマ・映画『信長協奏曲』といった作品で脚本家として活躍する宇山佳佑。その新作書き下ろし小説『桜のような僕の恋人』(集英社)は、美容師の有明美咲とカメラマンになることを夢見る朝倉晴人の約1年の恋を描くラブ・ストーリーだ。

夏が終わりかけた、ある日の午後。晴人は初めて入った下北沢の美容室で出会った美容師の美咲に一目惚れ。美咲と会うことを目的に店を訪れるようになっていく。やがて訪れた翌年の桜の季節、晴人は彼女をデートに誘うことを決意。ところが、ヘアカット最中に誘いの言葉を口にしたところで大ハプニング! なんと美咲がハサミでうっかり晴人の耳たぶを切り落としてしまったのだ。病院に運ばれて耳たぶは無事に縫い付けられたものの、デートのお誘いを思わぬ形で失敗して落ち込む晴人。そこに美咲が息を切らせて駆けつけてきた。何度も頭を下げる美咲が「わたしにできることがあれば、なんでも!」と言ったとき、「フェアじゃない」ということをわかっていながらも晴人は「僕とデートしてください!」と要求。美咲は思わず絶句しながらも晴人の誘いに乗ることに。

春の陽光が穏やかに輝く日、初めてのデート。晴人は美咲にひとつの告白をすることになる。それは自分が“プロのカメラマン”だと偽っていたこと。カメラマンになるという夢を持っていたことは事実だったが、プロの現場の厳しさに逃げ出してしまった晴人は、その夢を諦めてしまっていた。そんな晴人の“嘘”を知った美咲は自分が「職業で人を判断するような女」と思われていたことに激怒。そして自分の夢をあっさり諦めてしまった晴人の情けなさにも腹を立てるのだが、晴人はそれを自分への激励と誤解してしまう。そして、もう一度カメラマンの夢を目指す気になって、美咲に「僕はあなたに相応しい男になってみせます!」と宣言。そんなまっすぐな言葉に怒っていたはずの美咲の胸は思わず熱くなって――。

晴人の純真な想いに美咲も惹かれていき、やがてふたりは恋人同士になる。つき合い始めたばかりのぎこちなくも初々しいやりとり、少しずつ親密になって距離が近づき、進展していくふたりの関係。好きな人と時を共に過ごす幸せ――しかし、そんなふたりの始まったばかりの恋の喜びは無残に断ち切られる。美咲が通常の何十倍もの早さで老いていくという難病を発症してしまうのだ。急速に年老いていく自分の姿を見せたくないと悩んだ美咲は晴人に一方的に別れを告げる。そんな美咲の態度の急変に晴人もまた混乱していく。2人はこのまま終わってしまうのだろうか…・・・?

突然の悲劇に襲われたふたりの選択。それが正しいものであったのか、その判断は人によって分かれるだろう。しかし、それは相手を思う気持ちゆえの行動であったことだけは確かだ。そのどこにも行き場のない想いの切なさ、取り返しのつかないすれ違い、儚く散っていく恋。

帯にもあるように、本書を読んで思わず涙する人の多くは、そこに人の運命の非情と残酷さ、そして恋に生きることの美しさを感じるからだろう。世界の終わりのような悲しい出来事の後も、時はただ移ろいでいく。季節はめぐり、桜はまた同じように花を咲かせる。その桜の花と同じようにいつまでも変わらない想いはあるのだろうか。そんな晴人の問いに自分を重ねて考えてしまう人もきっと多いはずだ。

文=橋富政彦

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