「26歳で死ぬ」呪われた娘を巡る時代伝奇スペクタクル小説!【第15回『このミス』大賞優秀賞作】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12


『京の縁結び 縁見屋の娘』(三好昌子/宝島社)

縁はたゆむことなく、人と人とを結び続ける。それを周りが断とうものなら、祟られるのも、呪われるのも無理はあるまい。宝島社が主催する第15回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞したのは、とある呪いに苦しむうら若き乙女の物語だ。

『京の縁結び 縁見屋の娘』(三好昌子/宝島社)は、京都を舞台とした時代伝奇スペクタクル小説。呪われた娘の葛藤を中心に、母と子の強いつながりを描き出したこの作品は、ミステリー愛好家だけでなく、より多くの読者の心を打つに違いない。狭義の「ミステリー」の枠にはおさまらないからこそ『このミス』大賞は逃したものの、事実、この作品は『このミス』選考委員たちをその圧倒的な完成度と内容のおもしろさで唸らしたという。

舞台は、江戸時代、天明7年の京都。働き口や住む場所を紹介する「縁見屋」のひとり娘・お輪は、代々から続く“徳を積む”という家訓のもと、通りすがりの修行僧や旅人などあらゆる人の世話を焼きながら家業に励んでいた。だが、彼女の心にいつも影を落としていたのは、「縁見屋の娘は祟りつき。男児を産まず、26歳で死ぬ」という噂。母も祖母も曾祖母も同じ運命をたどったことを知ったお輪は、自身もそのあとに続くであろうことを憂いていた。ある日、店に、修験の行者がやってくる。帰燕(きえん)と名乗るその男に、なぜか心を惹かれていくお輪。そして、帰燕もまたお輪の悪縁を祓うよう“秘術”を施そうとするのだが…。縁見屋の歴史と四代にわたる呪縛。その裏に隠されたある親子の哀しい過去。そして、帰燕の正体は…。息を飲むような真実がすべてをつなぎ、やがて京全土を巻き込んでいく。

advertisement

小気味よい京言葉を肌で感じているうちに、すぐに読者は自らが物語の世界、うららかな京の街をさまよってしまうことに気づかされるだろう。お輪に振りかかった呪い。誰かと一緒になることも、子をもうけることも恐れる心。それを加速させるように、お輪は昔から火事の夢をよく見るという。京の街が燃え、自らの子を失った女の夢は、ただの夢とは思えない。そんな日々のなかで、帰燕に出会ったことでお輪の何かが動き出す。子どもを喰らうという愛宕山の天狗伝説。「縁見屋」の初代・正右衛門が愛宕山の行者から授けられたという“天狗の秘図面”。伝奇的な要素も満載だが、すべてが眼前に浮かぶようなのは、その筆力・展開力があまりにも巧みだからだろう。気づけば、お輪になりかわって、帰燕の不思議な魅力に惹かれ続けてしまう。

呪いを断ち切ることができるのは、私欲に走らないまっすぐな心だけだ。「縁見屋」にまつわる悲しい過去をひたむきな心で乗り越えていく娘の物語、そして、その裏に隠された母子の物語は、誰の胸にも迫るものがあるにちがいない。

文=アサトーミナミ