第9回「伊丹十三賞」受賞! 星野源、待望の書籍最新刊『いのちの車窓から』インタビュー

エンタメ

2017/3/30

    img01.jpg

『ダ・ヴィンチ』5月号(4/6発売号)は「星野源総力特集」! 
ダ・ヴィンチニュースでは待望の書籍最新刊『いのちの車窓から』発売記念インタビュー部分を先行公開!

本誌2014年12月号より連載中のエッセイ『いのちの車窓から』が、ついに単行本化された。昨年末の大ブレイクに至る2年間のドキュメントでありながら、“星野源その人”を感じることができる、特別な輝きを放つ一冊だ。

 毎月1本、2000文字。
 星野源は2014年末から、本誌でエッセイを発表している。文筆家の顔を持つ彼にとって、現在唯一の執筆連載だ。

「他誌で他のエッセイ連載をしていたこともあって、もともと『ダ・ヴィンチ』では、人生相談の連載で書いていたんです。読者からの相談メールに対して、文章で答えていくっていう。でも、僕が倒れてしまって、連載が休止になったんですね。復帰してから少したって、編集さんに“お仕事を再開しませんか?”という連絡をいただいて。そこで、“エッセイにしたいです”って話をしました。ネタがあってそれにリアクションするっていうものよりも、今はもっと素直に書けるもののほうがいいなあって思ったんです。その年の頭に、『蘇える変態』を単行本にするための原稿直しの作業をずっとしていたんですが、それが楽しかったんですよね。その余韻が残っていた、というのも大きかったかもしれないです。編集さんも、“ぜひお願いしたい”と喜んで受け入れてくれました」

 新連載を立ち上げるための作業工程上、第1回の原稿締め切りより先に、タイトルを決める必要があった。『いのちの車窓から』。このフレーズを思い付いたことが、これまでのエッセイとは異なるトーンを導いた。

「それまでは自分が言いたいこととか不満に思っていることとかを書くことが多かったんです。そういうのはもう、疲れちゃって(笑)。そうじゃなくて、自分が見た景色とか会った人とか、自分の外側のことを丁寧に書いていってみたいなと思いました。そこから“車窓”という言葉がぽっと出てきて、初回の原稿でコンセプトがちゃんと設定できて。2回目以降は、そのコンセプトからちょっとはみ出したり戻ったりというイメージです」

 第1回でフィーチャーされたのは、俳優の古田新太だ。執筆時に共演していた『ラストフラワーズ』は、演劇畑で活躍してきた星野にとって復帰後初の舞台だった。そこでの思い出が綴られ、古田新太という人の魅力が言葉で輪郭付けられていく。そして、その先で――。

〈人生は旅だというが、確かにそんな気もする。自分の体を機関車に喩えるなら、この車窓は存外面白い。〉

 星野はこれまで、連載エッセイを単行本にする際は徹底的な加筆修正をおこなってきた。だが、本連載の単行本化では、原稿にほとんど手を加えていない。第1回の原稿も、句読点や事実関係を分かりやすくするための用語変更を加えたのみだ。

「ニュートラルな気持ちで素直に綴っていくっていう気持ちよさを、第1回の原稿の時にやっと発見できたのかなって。やっと自分の文章になってきた感覚があります」

言葉にできるものではなく、感じてもらうしかない

「最初に1個だけ決めたのは、下ネタは書かないってことでした。自分がエッセイで下ネタを書く時は逃げてる時だなと気づいて。簡単に特徴的なものに仕上がるから楽なんです。それは恥ずかしいことだなと」

 逃げずに、まっすぐに、自分と出会ってくれた人々や自分が体験した出来事、そこから引っ張り出された思考や感情を、言葉にする。その方針で綴られていった全30編は、例えば――。

 笑福亭鶴瓶が2年前に放った言葉と、2年後の今届けられた「死」を巡る言葉の違い。大泉洋のチャーミングないじわるさと、とびきりの優しさ。新垣結衣という人の「普通」さという、魅力。ドラマ『コウノドリ』で共演した吉田羊(途中から呼び名は「俺の羊」)との撮影現場の交流を綴った一篇は、途中から「人見知り」というテーマにスライドしていく。

〈相手に「人見知りで」とさも被害者のように言うのは、「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人間なので、そちらで気を使ってください」と恐ろしく恥ずかしい宣言をしていることと同じだと思った。/数年前から、人見知りだと思うことをやめた。〉

 再び撮影現場の風景に戻った時、吉田羊との何気ないやり取りが、あたたかな感触として心で弾ける。

「誰かについて書きたいなぁとは常々思っているし、基本的にその都度のリアルタイムに起きたことや見たことを書いているんですが、人見知りについてはたぶん、心の中にずっとあったものだと思うんです。引き出しにずっとしまっていて、忘れていた。羊さんのことを書こうとした時に、それが出てきたんですよね。これは伝えねばってことではなくて、ポンと思い出して、あ、残そうっていう感じです」

 特定の人物ではなく、情景を書くこともある。偶然に偶然が重なり、辿り着いた多摩川競艇場で観たオレンジ色の景色。作曲作業後の深夜3時に入った、立ち食いそば屋で流れていた音楽。カフェで出会った柴犬……。

「例えばあの日偶然、多摩川競艇場へ行った日に得た感動は、言葉にできるものではなかったんです。感じてもらうしかないから、ひとつひとつの状況を細かく描写していきました。人のことを書く時も風景でも、心が動いたって部分を原点にしている感じがしますね」

 一方でこの一冊は、『逃げるは恥だが役に立つ』や『真田丸』で俳優としてブレイクし、音楽家としては『SUN』で初の紅白歌合戦出場を果たし『恋』が大ヒットを遂げた、この2年間の星野源のドキュメントにもなっている。

「ただピュアな気持ちで書いてるだけじゃないですね(笑)。今自分がしている仕事についての話を書けば、読んでくれた人がもしかしたら新曲を聞いてくれるかもしれないし、新しいドラマを見てくれるかもしれないっていう宣伝の意識もあります。でも、書いていること自体はちゃんと誠実でありたいな、と。この連載が始まってから特に感じるようになったんですが、書くことによって情報整理できるというか、楽曲とか出演するドラマについて自分が本当に思っていることは何かが分かるんです。その後でメディアのインタビューを受けると、エッセイで一度言葉にしておいたおかげで、本当に思っていることだけをしっかり言える。もしもエッセイを書いていなかったら、言葉がぶれたり、盛ってしまっていたと思うんです」

ひとりじゃないって思える日は来るよ

 全30編の最後に収録されたエッセイのタイトルは、「ひとりではないということ」。単行本化の作業の際、連載時とは順番を入れ替えこの1編をラストにしようと決めた。2009年に刊行した初エッセイ集『そして生活はつづく』、そのラストに収録された1編「ひとりはつづく」と呼応させたかたちだ。

「『ひとりではないということ』の原稿を書き終えた時に、そういえば前に同じようなテーマで書いていたなって思い出したんです。久しぶりに『そして生活~』を読み返してみたら、最後の『ひとりはつづく』という回で、“「ひとりじゃなかった」と思う日が、来りするのだろうか”と書いてあったんですね。自嘲気味ではあったけれども、エゴにまみれてひとりぼっちだなあと思っている自分がそこにいた。それに対して“思える日は来るよ”って答えているような文章を『そして生活~』と同じ本のラストに持ってくれば、自分の変化をよりはっきりと示すことができると思ったんです」

 8年前の『そして生活はつづく』と『いのちの車窓から』では、文章の質感やテーマ設定の変化だけではなく、星野源という人間そのものの変化も書き込まれているのだ。その変化を、読者は楽しむ。

「今もたまに、書いてる途中で気持ち悪いなあって思うこともあるんですが、それはたぶん素直に書けていないからで。文章を通して自分のことをこう思ってもらおう、というよこしまな気持ちがあるってことなので、そういう時は頭から全部書き直します」

 ああ、だからなのだ。解体全書にも記したが、この一冊は本当に、星野源によく似ている。人が好きで世界を楽しむ、星野源という人そのものの存在感がここにある。「文章のことを褒めていただけるのは、とっても嬉しいです。なんて言えばいいんだろう……。喫茶店とかで話して“じゃあね”って言って、後日別の人から“すごく楽しかったって言ってたよ”って言われた感覚(笑)。僕という人間を楽しんでもらえたのかな、っていう感覚になるのかもしれないです」

 本のカバーは、『恋』のジャケットデザインを手掛けた吉田ユニと、連載初回からエッセイの挿絵を担当しているすしおが、がっちりタッグを組んで完成させた。もしかしたら気づいていない読者の方がいるかもしれない。カバーの青年が全身で表現しているのは、数字の「1」だ。

「今も連載は続いているし、書くことをやめるつもりはないです。もっと素直に、もっともっと文章の精度を上げていきたい。いつか〈2〉が出せるように、頑張ります」

取材・文=吉田大助
写真=干川 修
スタイリング=TEPPEI
ヘアメイク=高草木剛(VANITES)

『ダ・ヴィンチ』5月号(4/6発売号)は「星野源総力特集」!
35ページにわたる大特集! 星野源が『ダ・ヴィンチ』表紙を飾り、また写真家 荒木経惟が星野の“素顔”「裸ノ顔」を撮る!


★ダ・ヴィンチ 5月号星野源特集内容★

表紙:星野源

アラーキーの裸ノ顔 
『ダ・ヴィンチ』で連載中の「男―アラーキーの裸ノ顔―」に星野源が登場!

星野源解体新書
8ページにわたるロングインタビュー。なぜ、わたしたちは、これほど彼に惹かれるのか。一人の男の軌跡を追う。

選んだ本から頭の中が見えてくる
星野源とめぐる、書店散歩

文筆家・星野源のお仕事姿 マンガ「カンヅメの夜」
星野源さんの執筆のお仕事姿を青木U平氏が描く!

【対談】米澤穂信×星野源
星野がファンと公言する作家・米澤穂信さんとの対特別対談。

【寄稿】楽曲からインスパイアされて生まれた
ストーリー/トリビュート小説 乙一

【寄稿】脚本家・野木亜紀子が書く
『逃げ恥』からみる俳優・星野源の魅力 ほか