『君の膵臓をたべたい』の住野よるが憧れる小説家・紗倉まなの“冷たい目線”とは? 【住野よる×紗倉まな対談/前編】

エンタメ

2017/4/3


 2015年、『君の膵臓をたべたい』で彗星のごとくデビューした小説家・住野よるさん。その累計発行部数は75万部を突破し、実写映画化も決定。『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』と立て続けに新作を発表し、3月22日には最新作『か「」く「」し「」ご「」と「』を上梓。
 一方、小説デビュー作『最低。』で強烈な存在感を示したのが、現役AV女優の紗倉まなさん。映画『64-ロクヨン-』の瀬々敬久監督による実写映画化も決定し、3月18日には小説第二作となる『凹凸(おうとつ)』を発表。大きな話題を集めている。
 一見、あまり関係がなさそうなふたりだが、実はTwitter上でやり取りをしている。紗倉さんが執筆に行き詰まっていた時、それを救ったのが住野さんの呟きだったのだ。そこで今回は、新刊を発売したばかりのふたりに対談の場を設け、その想いをぶつけ合っていただいた。

住野よるのキャラクター作法

紗倉まな(以下、紗倉):『凹凸』の執筆が一番行き詰まっていた時に、住野さんがTwitterで私のことを呟いてくださっていて……。それで、頑張ろうって。あの言葉、お守りにしてるんです。

住野よる(以下、住野):すみません、勝手にお名前を出してしまって(笑)。こちらこそ、「お疲れさまです」とかいつも声をかけていただいて、本当にありがとうございます。

紗倉:ちょうど深夜に作業をしていた時にファボをいただいて、「あ、住野さんも作業されてるんだ!」って思ったんです。

 開口一番、これまでの感謝をし合うふたり。同じタイミングでの新刊発売を控えていたため、作業の山場も重なっていた。声を掛け合うふたりの間には、作家ならではの仲間意識がうかがえる。

紗倉:新刊の『か「」く「」し「」ご「」と「』も読みました! 住野さんの学校を舞台にした作品、本当に素敵ですよね。とくに女性の心を言葉で表現されるのが本当にお上手で。求められて演じる自分と本当の自分、女の子ってどこにいてもそういう感覚があると思うんですけど、まさにそれが描かれていることに驚きました。

住野:ありがとうございます。

紗倉:住野さんって、最初から明確に「これ!」って決めてキャラクターを書かれるんですか?

住野:いや、割りと変化していくんです。たとえば、〈エル〉っていう女の子は、最初はただの引っ込み思案でかわいらしい子だったんです。でも、書いているうちにどんどんずるい子になっていって。

紗倉:そこがかわいいんですよね。クッキーの作り方を聞かれた時、あえて隠し味だけは教えないとか(笑)。女の子同士の会話でよく「化粧品なに使ってるの?」とか聞かれるんですけど、良いものは逆に教えたくないんですよ。その心理とすごく似ていて、「うわぁ~、エル、わかるわかる!」って〈エル〉の気持ちに共感しちゃいました。すごくリアルでしたよ。

住野:うれしいです。紗倉さんはどうやってキャラクターを作られるんですか?

紗倉:私はもうブレブレで(苦笑)。プロットを綿密に立てても、結局どんどん性格が変わっていくんです。途中で「こっちの方が書きやすいから、もうこういうキャラクターでいこう」ってなっちゃうから、最初と最後で全然人が違うっていうこともしょっちゅうで。自分が思っていたものとは違う、新しいものが勝手に生まれちゃうことがあるんです。住野さんはそんな風にキャラクターが暴走しちゃうことってありますか?

住野:『また、同じ夢を見ていた』に出てくる〈尻尾の千切れた彼女〉は、最後まで「この子はなんなんだろう……」って思いながら書いてましたよ。立ち位置が最後までよくわからなくて、私自身も主人公と一緒に「自分にとって〈尻尾の千切れた彼女〉はどんな存在なんだろう」と考えながら作り上げたキャラクターでしたね。

紗倉:作品を書きながら、キャラクター自身が育っていく感じですよね。小説ってそこが面白い。自分でもわからないキャラクターが作品の中にいるって、本当に不思議です。

 住野さんの作品に対する愛情や、作品を構成する登場人物たちへの想いがあふれる紗倉さん。すると今度は住野さんが紗倉さんの小説について語りだした。

住野:そもそも、一作目の『最低。』を読んだ時に、「これはすごい!」と思ったんです。他に本業を持つ方が片手間で書いたような作品ではない、と。読んでいて居心地の良さを感じたんです。それは技術的な文章のリズムのうまさからくるものだと思っていたんですけど、『凹凸(おうとつ)』を読んで、紗倉さんがとても「冷たい目線」を持っているからだと思いました。紗倉さんの目線からは変なやさしさとか、あたたかさが排除されている。それは表現しないだけで、誰もが持っている〈他者への冷たさ〉に沿っていると思うんです。だから読んでいてすごく居心地が良い。

紗倉:いま、すごくドキッとしました。住野さんの作品は全体的にあたたかみがあって、私と対極的なものをずっと感じていたんです。会話のやり取りも自然で面白くて、だけど鋭いところもあって。それって、きっと住野さん自身、人と話すことがお好きだからだと思うんです。私は冷めているところもあるし、人と会話することも少ないのできっと書けないんだろうなって。だから、住野さんの作風が本当にうらやましいんですよ。

住野:でも、紗倉さんの目線って、持とうと思って持てるものじゃないと思うんです。紗倉さんの作品に登場するキャラクターって、「自分が他人にどう見られているのか」がきちんと見えているんですよね。そこが書けるのって小説家としてすごい能力ですし、私がいくら努力しても持てない目線なんだと思います。その目線がなければ、『凹凸』の第5章のような物語は絶対に書けないですよね。

紗倉:どうしよう、泣いちゃいそう(笑)。

「文章でしかできないこと」を表現したい

 ここから、対談のテーマは「物語をどのように構成しているのか」へと移っていった。ふたりの作家はストーリーをどのように組み立てているのだろうか。

住野:毎回、やりたいことを一個実現させるために物語を作っているんです。『か「」く「」し「」ご「」と「』でいうと、昔から思っていた「世の中の人たちはみんな超能力を持っていて、それをお互い隠している」という話が書きたいがために考えた物語なんですよ。

紗倉:そうなんですね! それぞれのキャラクターがみんな違う能力を持っていて、しかもそれが記号で表されているという発想が面白かったです。なんでこんなこと思いつくんだろうって。うれしい、さみしい、怖いっていう感情を、文学の中に記号として入れられるってすごく斬新ですよね。

住野:文章でしかできないことがやりたいんです。だから映像化は難しいと思うんですけど(笑)。

紗倉:私はiPhoneのメモ帳をよく使うんですけど、そこに書き溜めていたものをWordに起こした時に、「あ、次に書きたいのは父性や母性、家族のことなんだな」って確信したんです。そこから書き始めていきました。だけど、今回は何度も何度も担当さんとやり取りして、書き直したりもして……。住野さんは、たくさん作品を発表されていますけれど、原稿が何本も並行して混乱することはありませんか?

住野:ありますね。だから、本編を書くタイミングはずらすようにしてるんです。ひとつの本編を書いている間は、他の原稿は直しの作業だけにするとか。でも、どうしてもタイミングが重なっちゃうこともあって、こないだ締切のことで担当さんと軽く喧嘩してしまって(苦笑)。

紗倉:住野さんでもそんなことがあるんですね!? なんだか励みになります(笑)。

 対談後編では、お二人の特徴でもある「既存の新人賞を経由しないデビューの仕方について」をお届けする。

対談後編はこちらから読むことができます⇒//ddnavi.com/news/364622/

構成=五十嵐 大
写真=飯岡拓也