仕事で頭を下げるのは自分勝手?! 相手を思いやるスーパー公務員の実績と手法がすごい!『頭を下げない仕事術』

ビジネス

公開日:2017/4/12

『頭を下げない仕事術』(高野誠鮮/宝島社)

「すみません」「お願いします」と頭を下げることは礼儀にかなっていること。本書のタイトルに、緻密な策略やずる賢い小技を想像した人もいるかもしれない。しかし、「頭を下げる」ことは、仕事において礼儀というより身勝手を意味しているかもしれない。

頭を下げない仕事術』(高野誠鮮/宝島社)が説いているのは、利他の精神だ。一見すると上から目線のタイトルだが、むしろ正反対。「他人を利する」つまり本当に相手のためを思うことが大前提と語っている。

 著者の高野氏は言う。「頭を下げるというのは、自分のために何かしてほしいから行うもの」で利己。つまり利他とは正反対の行為だから、やってはいけない。恩義も何もない仕事でかかわる相手が「お願いします」と頭を下げたところで、それは自分が困る、助かるからという意味なので、相手が動くはずがない。交渉術や巧みな話術なども存在しない。たとえ頭を下げなくても、ただ熱意をもって相手を思えばいつか伝わるとシンプルに説く。

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 石川県羽咋市役所のスーパー公務員と呼ばれた高野氏は、そうしてローマ法王に地域のブランド米を食べさせ、NASAから「ルナ/マーズ・ローバー(月火星面探査車)」や月の石を無償で100年(!)借りることに成功。過疎高齢化の限界集落を活性化させた功績は、唐沢寿明主演のドラマ「ナポレオンの村」の原案にもなった。

 一体どうやって成し遂げたのか。もともと僧侶の家に生まれ、寺を継ぐため帰郷した高野氏が、慈悲利他の心を礎にした“仕事術”は、仕事だけでなく生きていくための知恵としても活用したいことばかりだ。

■行動力と「知」→「情」→「意」の極意

 ローマ法王に米を食べてもらうため、どうしたかというと、実にバチカンに手紙を書いただけ。NASAにはFAXを送ったそう。直球勝負の行動力に驚かされるが、どんな試みにも、事前に綿密なリサーチと準備が重ねられている。

 高野氏いわく、人間の行動は「知」→「情」→「意」のベクトルでしか動かない。まず「知」とは、知っていること。だが、これだけでは役には立たない。もちろん、グーグルで調べただけでは使える「知」にはならない。せいぜい飲みの席でネタになる程度だ。

 次のステップとなる「情」とは情報のこと。情報は「人」が発しているので、情報源である「人」に当たることが不可欠という。ググった情報を生きた情報に変えてから、分析をするのだ。

 そうして「意」となるアクションへ移る。もちろん実際に行動に移すことは、容易ではないし、失敗もする。けれども、失敗をして経験をすることも大事なのだという。

 本やインターネットで学んで自転車にすぐ乗れる人がいないように、経営学の書籍を読みあさっただけで立派な経営者にはなれない。だから、血肉となる情報をもとに失敗しながらアクションをしていけばいい。

■「予言者」の言うことには耳を貸さない

 何か新しいことを提案したり実行したりするときに、必ず現れるのが「そんなのはムリに決まってる」と横ヤリが入ることだろう。これについても高野氏は、そうした「予言者」の言うことに耳を貸す必要はないと説く。

 実際、役所などの会議でも何度となく、そうした否定的な意見を言う人々から“妨害”を受けたという。だが、やったことのないことをするのに、やったことのない人の意見はただの「予言」でしかない。本で読んだり、人から聞いたりした、血肉になっていない情報は信頼に値しない。

 高野氏は、「失礼ですけど、あなた、予言者ですか?」とここでも“直球勝負”で反論し、相手をのぼせ上がるほど怒らせたとか(これは気をつけてくださいと注意を促しているけれども)。

 それとは逆に経験がある人の話は、成功に導くヒントがあるから耳を傾け、参考にできる。誰も見つからなければ、経験のある人の書いた本や論文がいい。もし誰に経験があって経験がないのか見分けられないなら、アメリカ政府が書いた戦略、ノーベル賞などを受賞した人たちの論文などがある。

 日本語以外の原文で元の情報を取ること。そのアプローチと本人の実例は、日本の閉鎖的な尺度を軽々と超える。

 知るべき情報、聞くべき話、当たるべきソースに当たり、相手のことを考えて行動する。簡単なことではないけれども、手法そのものはシンプルだ。鬱屈することがあっても、失敗しても、この“仕事術”を心がけていけば、仕事も人生も拓けるかもしれない。

文=松山ようこ