『爽』に含まれる4つのバツ印が示すものは…実は恐ろしい意味を持つ漢字

文芸・カルチャー

2017/4/16

『本当は怖い漢字の本』(出口 汪:監修/水王舎)

漢字にはそれぞれ意味があるが、長い年月の間に異なる意味で使われるようになったものもある。最近では音の響きや見た目の雰囲気だけで子どもの名前に字を当てる人が増えたが、案外恐ろしい意味の漢字が使われていることも少なくない。漢字が作られたのは約4000年も昔の中国。現代の日本人では想像のつかないような成り立ちをした漢字も多い。そこで『本当は怖い漢字の本』(出口 汪:監修/水王舎)を取り上げる。

『爽』に含まれる4つのバツ印は入れ墨

「颯爽」「爽快」などに使われる『爽』は、晴れやかですがすがしいイメージのある漢字だ。しかし、さっぱりと気持ちのよさそうな漢字でありながら、中に4つもバツ印が含まれているのはなぜなのだろうか? 実はこのバツ印は死体に彫る入れ墨なのだ。大の字になって横たわっているのは死体。この場合は女性の死体だ。この字が生まれたころは、死者の魂を清らかな状態に保っておけば、いつかは復活できると信じられていた。バツ印は邪悪なものの侵入を防ぐための彫り物。女性の場合は、赤ん坊を産み育てる存在ということもあり、乳房と腹部に朱で彫られた。現代の日本人の感覚からすると、あまり爽やかな感じはしないが、魂を汚されないために行った作業のため、入れ墨が済んでいる死体はいつでも生まれ変わりが可能な、まさしく『爽』の状態だったのだろう。

現代とは違い過ぎる幸せの基準

『幸』という字は幸せを意味する。しかし、元になっているのは罪人の手足にはめられる手かせだ。この漢字が作られたころの中国の刑罰は、死刑に値する「大辟」、去勢または幽閉にあたる「宮刑」、鼻を削ぎ落す「劓刑」、刺青を入れる「黥刑」、足を切り落とす「剕刑」の五刑とかなりむごたらしい内容だった。だから、手かせ足かせをかけられている段階ならまだ安全。拘束を解かれて五体満足のまま帰ることができればこの上ない幸せだったのだ。ちなみに、木製の手かせ足かせを表すのが『械』。『執』は手かせをはめられた罪人がひざまずいている様子からできた漢字だ。自宅謹慎を表す蟄居の『蟄』にも幸の字が使われているのも、この成り立ちがわかれば納得だろう。

又は「手」示は「祭壇」

象形文字は見た目を文字にしたもの。だから、異なる漢字でも共通する部分がある。例えば、『示』はいけにえを捧げる祭壇を意味する。祭壇の『祭』にも『示』が含まれているのはそのためだ。ちなみに『祭』の上の左側は肉、右側の又は人の手を意味する。神にいけにえの肉を差し出している様子からできた漢字だ。又が手を表しているのは「取」も同じ。この漢字ができたころの中国は戦いが絶えない時代だったため、戦功を上げた者ほど出世した。その戦功を証明するために勝者は敗者の耳を削ぎ落して取ってきた。その様子からできたのが『取』なのだ。では、奴隷の『奴』や賢者の『賢』は? 奴は手を使って労働する女性を表す字で『努』や『怒』にも含まれている。賢の上の左側はひれ伏している奴隷を表す字、右は手、下の貝はお金を表す。この字が作られたころの中国では、権力者の前ではひれ伏しながら、しっかり富を手に入れたものが賢いとされていたことがよくわかる。

漢字には作られた時代の人々の暮らしが反映されている。現代の日本人の感覚からすると、かなり恐ろしい成り立ちの漢字が多いが、必要に迫られて作られたのが文字であることを考えると、人間らしさが感じられておもしろい。現代の日本人が文字を生み出すとしたらどんな字になるのかも気になった。

文=大石みずき