ドラクエは文学作品と似ている⁉ “ドラクエ論”について語ってもらった

文芸・カルチャー

2017/4/15

『文学としてのドラゴンクエスト ~日本とドラクエの30年史~』(コアマガジン)

勇者である主人公が、ある日旅に出て世界を救う。

これがおそらくたいていの人が思い浮かべるRPGの基本だろう。

なぜか16歳の誕生日に旅に出て、人の家に勝手に入ってタンスを漁る。

勇者とは、RPGとは、そういうものである。こういったRPGの“常識”を作ったのがドラゴンクエストシリーズ(以下、ドラクエ)であり、このドラクエは文学作品やマンガ作品と似た構造で作られている、とライターのさやわか氏は言う。

文学としてのドラゴンクエスト ~日本とドラクエの30年史~』(コアマガジン)を上梓したさやわか氏に、ドラクエ論を語っていただいた。

■ドラクエと文学・マンガ作品はなぜ似ているのか?

――“文学としてのドラゴンクエスト”とは、どういうことなのでしょうか?

さやわかさん(以下、さやわか) はい。その話をするために、まずは日本のRPGの特徴からお話ししていきたいと思います。日本のRPGって、人気作品であるほどキャラクターが用意されていて、プレイヤーはその特徴的なキャラクターに“なりきる”ことでゲームを進めていきますよね。

――そうですね。主人公になりきります。

さやわか ドラクエの場合なら、5だったら父親に連れられて冒険している少年で、7だったら漁師の息子で、という具合に、毎回鳥山明先生がデザインした主人公が用意されています。これはドラクエに限らず、基本的に日本製の人気RPGはどれもそうなっているはずです。

――ほかのRPGでも、『ゼルダの伝説』にはリンクという主人公がいますし、『MOTHER2』の主人公はネスですね。

さやわか そうです。プレイヤーはリンクやネスになりきってゲームを進めていくわけです。そこにプレイヤー本人の自我のようなものは存在するようでしない。例えば、僕、さやわかがRPGをプレイしても、さやわかという人間が主人公としてゲームの中に出てくるわけではないですからね。

――そうですね、確かに。

さやわか それでいて、クリアしたときに「自分が世界を救った!」となる。これって、日本の文学作品やマンガ作品と非常に似た作りなんですよ。

――文学もマンガも主人公に感情移入して読む、という点でしょうか?

さやわか その通りです。それが日本人にとって、自然なRPG観なのです。特にコンピュータゲームにおいては、この“なりきる”流れはドラクエが広めたのではないか、と僕は考えています。「あなたが主人公の物語」を作りたかった堀井雄二は、プレイヤーが主人公キャラクターに憑依することで、そのお話の中の出来事や感情を体感できるというものにしたのです。これは、堀井雄二がもともとはマンガ家を目指していたというのも関係しているのかもしれません。

■自分視点で体感するのが海外の人にとっての“リアル”

――先ほどから「日本のRPG」、「日本人にとっての」とおっしゃっていますが、これって日本特有のものなのですか?

さやわか そうなのです。よく、「ウィザードリィ」と「ウルティマ」という海外のゲームを掛け合わせたのがドラクエだ、といわれるのですが、ある部分ではそうではないと僕は考えています。確かに、ゲームシステム面ではその通りなのですが、物語体験の価値観については、「ウィザードリィ」や「ウルティマ」とドラクエではかなり違っています。海外のゲームは、主人公のキャラクターというのが出てこなかったり、出てきてもあまり強いキャラ付けがされていなかったりするんです。また、一人称視点、つまりプレイヤー視点のカメラワークで画面が作られていることも多いです。

――なるほど。日本のRPGのように主人公の外見が見えていて、それを動かすのではなく、主人公(プレイヤー)の目から見た世界が画面に映るんですね。

さやわか そうです。それが海外の人にとっての自然なRPG観なわけです。

――ここ数年、「リアル脱出ゲーム」に代表されるような、ゲームやマンガなどのファンタジーの世界を体感するイベントが人気ですが、そのお話で言うと、これはどちらかというと海外のゲームに近い発想ということになるでしょうか?

さやわか そうだと思います。自分が体を動かして謎を解いて脱出する「リアル脱出ゲーム」は、何かのキャラクターになりきるのではなく、プレイヤーである自分視点で進めていきますよね。自分自身がその世界の中に入るわけですから、日本のRPG、すなわちドラクエ的な発想とは根本的に違っています。

■ドラクエ1~10の中で、最も「ドラクエらしい」作品とは?

――こういったドラクエの持つ日本人的な“リアル”が、海外でのドラクエの評価に影響することはあるのでしょうか?

さやわか 実はそもそもドラクエ4~7は海外で発売すらされていないんですよ。そういう意味で、海外で大ヒットしているシリーズとは言い難いんですよね。

――そうなのですね。個人的にはドラクエ4~7はシリーズの中でも最も好きな4作なのに……。

さやわか 僕もそう思うんですけどね。「天空シリーズ」といわれているドラクエ4~6は、個性的な仲間キャラクターがたくさん登場したドラクエ4、ビアンカかフローラを選ぶ結婚イベントのドラクエ5、夢の世界というパラレルワールドが存在していたドラクエ6、といずれも物語面に強い特徴があった作品ですし。

――さやわかさんの考える「最もドラクエらしい作品」ってどれになるでしょうか?

さやわか 「最もドラクエらしい作品」とはつまり、どれが最も自分にフィットする物語体験を味わえるか、という話になります。ドラクエ1がそうだという人もいれば、ドラクエ3という人もいるでしょうし、これという答えは出しづらいですね。ただ単純に物語の特徴で言えば、僕はドラクエ7にドラクエらしさを最も感じます。

――そうなのですね。どの部分がそれにあたるのでしょうか?

さやわか ドラクエ7って、最初すごくのどかな雰囲気で始まるんですよね。世界には島が一つしかなくて、その島にはモンスターもいなくて一見平和で、主人公はその島にある村の漁師の息子で。ところが、話を進めていくと非常に暗いストーリーだということがわかってきます。「恋人を殺された女性が魔族になってしまう」というのが最初の事件ですし、行く先々で暗い事件が次々と起こる。

――ドラクエ7はあまりに暗い話が多くて、「鬱ストーリー」といわれていますよね。

さやわか そこがすごく“マンガっぽく”て、ドラクエらしさが表れているんですよね。マンガっぽいというのは、評論家の大塚英志さんが「傷つかない身体を持ったキャラクターが登場して、そのキャラクターたちが死んだり傷ついたりするのがマンガの本質だ」といった主張をしているのですが、ドラクエ7はその本質を一番体現しているなと思えるわけです。

――ドラクエといえばやはり5や3が人気で、ドラクエ7は世間でそこまで評価されているイメージがなかったので意外でした。

さやわか ドラクエ7は失われた過去を少しずつ復活させていく、というお話なのですが、ひとつひとつのエピソードが独立しているように見えて、目的がわかりにくいんですよね。

――あと、石板を集めるのが面倒、ともよく言われていましたよね。ストーリーはすごく面白いのにもったいない……と思いました。

さやわか そう、ストーリーに関しては、90年代半ば以降の、阪神淡路大震災後の不安や、世の中の中心的な価値観が次第に失われてしまって何を信じたらいいのかわからなくなってしまった時代性もよく反映した物語になっています。これもすごく日本の現代文学が好むテーマで、ドラクエ7はそれをちゃんとやっていると言えるんです。その反動なのか、次のドラクエ8は、サブタイトルの「空と海と大地と呪われし姫君」の通り、お姫様を助けるのが目的なのね、とすぐわかる一本道な構造になっています。どちらが好きかは好みが分かれるところですが。

■今後ドラクエはどうなっていくのか?

――ドラクエ10の発売から約5年がたち、ドラクエ11が今年中に発売予定(2017年3月現在)と発表されていますが、今後のドラクエはどうなっていくと思いますか?

さやわか ドラクエ8以降の流れとして、新しい時代のハードが持つ性能に合わせたドラクエ作り、というのが隠れたテーマになっていると思います。等身大の3D空間を旅するドラクエ8、すれ違い通信機能を持ったドラクエ9、初のオンラインゲームに挑戦したMMORPGのドラクエ10、といった具合に、ナンバリングタイトルがシステムの特徴と紐づけられるのです。

――確かに! 「結婚イベントのドラクエ5」のように、ストーリーの特徴で一言で言い表せたそれまでの作品とは明らかに違った流れですね。

さやわか ドラクエ8~10はそういう意味で、模索期間だったと思うんです。実際、ドラクエ10なんかも発売されてから何度もアップデートを繰り返し、最初の頃と比べたら格段に遊びやすく、またシナリオも魅力的になりました。こうやってノウハウが積み重なってきている今、ドラクエ11ではテクノロジー面だけでない物語の深みが期待できるのではないかと思います。

「ドラゴンクエスト11 過ぎ去りし時を求めて」の公式発表によると、対応ハードのプレステ4と3DSのうち、3DSでは立体的な「3Dモード」の画面とドット絵で描かれた「2Dモード」の画面の両方が用意されているのだという。この2017年にドット絵の画面で最新作を楽しめるとは、古くからのドラクエファンの心をがっちりと掴む、心憎い演出である。さやわか氏が指摘するように、久しくストーリー面で強い特徴が見られなかったドラクエシリーズだが、11ではどのように舵をきるのだろうか。新しい“文学性”を見せてくれるのか、期待がかかる。

取材・文=朝井麻由美 https://twitter.com/moyomoyomoyo