朴槿恵前大統領の心に付け込んだ“悪魔”の正体とは? 前代未聞の韓国大統領スキャンダルの裏側

政治

2017/4/14

『朴槿恵 心を操られた大統領』(金香清/文藝春秋)

 3月31日、韓国初の女性大統領として、国民から多くの期待が寄せられた朴槿恵(パク・クネ)前大統領が逮捕された。巨額の収賄、国家機密漏洩ほか、友人の崔順実(チェ・スンシル)容疑者と共謀したとされる、一連の「崔順実ゲート事件」の真相解明も正念場だ。

 この事件を傍観していて、「政治家でもない友人が大統領を操れるのか?」と不思議に思ったのは筆者だけではないだろう。そして、官邸でのひとりメシはまだしも「緊急時でさえ連絡の取れない“孤高の大統領”なんてアリなのか?」と。

 日韓のメディアで活躍する女性ジャーナリスト、金香清(キム・ヒャンチョン)氏によるノンフィクション『朴槿恵 心を操られた大統領』(文藝春秋)は、「崔順実ゲート事件」の全貌と、背景にある権力独占主義、コネ社会、若者世代の鬱屈などの韓国諸事情を明かすだけでなく、この事件の大いなる謎解きにも挑戦している。

 その謎のひとつは、朴容疑者の心に巣食い、陰で大統領を操った「本当の黒幕」。もうひとつは、両親を暗殺によって失った悲劇のヒロインとして政界デビューし、大統領にまで上りつめた朴槿恵という人物の「操り人形ではないその実像」に迫る作業だ。

 本書を読むとその作業はまるで、サイコ・ミステリーに登場する探偵のごとく、深い霧に覆われた迷路の出口を求めてさまようようなものだったに違いない。

 著者がたどり着く「本当の黒幕」は、崔容疑者の父であり、新興宗教の教祖だった崔太敏(チェ・テミン、故人)だ。朴容疑者の心に入り込む手口はまさに、宗教的なものだった。

 1974年8月15日、朴容疑者(当時22歳)の母、陸英修(ユク・ヨンス)が、当時大統領だった父、朴正煕を狙った凶弾の誤射により暗殺される。そして著者が「異常」と表現するほどに母を敬愛していた朴容疑者に、崔太敏はこんな言葉の数々を投げかける。

お母さまの声が聴きたいときは、私を通せばいつでも聴くことができます。」「お母さまはいなくなったのではなく、あなたの時代を切り開くために道を開けてくれたのですよ。」「(あなたは将来)初の女性大統領となり、アジアの指導者になる。本書より抜粋引用

 こうして崔太敏は、1975年頃から他界する1994年5月まで、朴容疑者が絶大な信頼を寄せるメンターとして君臨する。しかしその正体は、金と権力を私物化し不正・セクハラやり放題の悪魔だ。父、朴正煕大統領(当時)は、崔太敏の悪行を調査官に調べさせて把握するも、娘が関わっているため不問に付す。これに腹を立てた調査官によって、1979年10月26日、朴正煕は暗殺される。

 父を失ってもなお、崔太敏への信頼は揺らがなかった。そして崔太敏の死後、その代役を務めるのが娘の崔順実容疑者であり、「崔順実ゲート事件」へと繋がる。著者は、朴容疑者が崔容疑者との関係を続けた理由を「単に崔太敏の娘だから」だと推測する。つまり、朴容疑者は娘(順実)に父(太敏)の姿を重ねたのである。

 本書には、朴容疑者の妹夫妻の証言も登場する。それを読むと、崔親子は洗脳が解けないよう姉妹を疎遠にさせ、朴容疑者を徹底的に孤立させたことがわかる。その戦略は、朴容疑者が大統領になるとさらに本格化し、300人以上の死者・行方不明者を出した旅客船「セウォル号」の転覆事故が起きた日(2014年4月16日)でさえも、7時間もの間、誰もコンタクトができない“孤高の大統領”が誕生するのだ。

 崔太敏という悪魔を浄化する機会を逃した朴親子はこうして、2017年3月の逮捕に至るまでの約40年間、たった2人の崔親子の完全なる操り人形と化し、期待された韓国初の女性大統領は、国民さえも欺くことになったのである。

 では、朴槿恵とは一体、どういう人物・実像だったのか? そのことに関して著者はあとがきにこう記している。

一冊の本を書き終えてなお、私にはわからない。
大統領はあまりに孤独な人物だった。その心には、母への忘れがたい愛着があり、母に向けて、母の物語を孤独に演じていたように私には見える。それ以外は「空洞」のような存在だったのではないか。その空洞に、悪魔が付け込んだのだ。

文=未来遥