1000人に7人がかかる「統合失調症」がPCゲームで回復? 最新の治療法「NEAR」とは?

暮らし

2017/5/9

『統合失調症患者と家族が選ぶ 社会復帰をめざす認知矯正療法』(高橋太郎/幻冬舎)

 幻覚・幻聴、妄想と現実の区別がつかない…。ゲームや小説の中に出てきそうな状態だが、実は現実的で身近な病であることをご存じだろうか。統合失調症という精神疾患だ。現代人にとって、精神疾患という言葉自体は、見聞きしても驚くものではなくなった。鬱病が身近になり、メンタルクリニックの数も増えたからだ。そんな精神の病のうちで、治療が長期にわたるとされる病が、この統合失調症。厚生労働省のデータによると、一生のうちに統合失調症にかかる人は人口の0.7パーセント、つまり、1000人に7人の割合だ。心または精神を病むことが特別なものではなくなっている今、どんな病なのかを知っておきたい。

 まずは、該当する症状を紹介しておこう。冒頭に挙げた幻覚、幻聴、妄想の他にも、喜怒哀楽がなくなる、理路整然とした会話ができなくなる、他人に共感が示せなくなる、今までできていた作業が難しくなるなどだ。

 治療は、投薬がメインとなることが多い。また、近年では、「認知行動療法」や「認知矯正療法」という治療も行われている。「認知行動療法」は、物事の捉え方を正すもので、過度に悲観的になっているなど認知の歪みを正していく療法のこと。もう一方の「認知矯正療法」は、認知機能そのものを向上させることを目指すものだ。野球にたとえるなら、「認知行動療法」はバッティング練習や投球練習、「認知矯正療法」は筋力トレーニングや持久トレーニングに当たる。治療は、医師をはじめとする医療関係者が、患者と付き合いながらその都度最適なものをチョイスしていくことになる。そのため、治療は長期にわたることが多い。

 かつて、統合失調症の患者は、家族が手に負えなくなってから病院に連れて行かれ、一生を病院内で過ごすことも多かった。現在では、病の研究や薬の開発が進み、通院をしながら自宅で生活している人がたくさんいる。ただし、就労や家族や社会との繋がりを作るのが難しいとされ、社会復帰が視野に入ってきた人のための次のステップが必要とされていた。そこに登場したのがNEARである。

統合失調症患者と家族が選ぶ 社会復帰をめざす認知矯正療法』(高橋太郎/幻冬舎)は、最新の統合失調症治療NEARを紹介した一冊だ。NEARはパソコンで行うゲームで、医師の指導のもと病院で行う「認知矯正療法」の一種。専門の治療用ソフトで、病で弱った記憶力や判断力、注意力を鍛える効果があるという。これまでこうしたトレーニングは、患者が医療者と対峙しながらアナログで、つまり紙とペンで行っていた。しかし、NEARはパソコンを使うので、対人不安がある人でも行えるという。今まで「認知矯正療法」が充分に受けられなかった層への治療の道を開いたと言えよう。

 では、どんな内容のゲームなのだろうか。いくつか例を挙げてみよう。

(1)ルート99:マス目に書かれた数字を順にたどってゴールを目指す。ただし同じルートは通れない。
(2)宝探し:メモをヒントにマス目に隠された宝を探す。メモの指示通りに遂行することが要求される。
(3)さめがめ:落ち玉パズルゲームの「ぷよぷよ」に似ている。作戦を立てて実行する能力が求められる。

 どれも複雑なゲームというわけではなく、電車の中で携帯端末などでも遊べそうな内容だ。ただし、NEARはやはり治療なので、医療者の目の届くところで行うのが原則だ。

 こうした新しい治療法のおかげで、統合失調症になったからといって、会社勤めや一人暮らしを諦めなくていいというのは嬉しい。さらに研究が進んでほしいのが、病の原因だ。今のところ、はっきりした原因はわかっておらず、何が引き金になるのか、体質や遺伝との関係など、研究結果の発表が待たれる。また、世の中が、症状が出ても悲観することがなく生きていけて、就労以外のゴールも堂々と選べるような大らかなものであったらいいのにと、理想論かもしれないが、思うのだ。

 

文=奥みんす