『おしん』『あまちゃん』をも超える最高傑作とは…!? “朝ドラ”というドラマを楽しむ

エンタメ

2017/5/16

『みんなの朝ドラ(講談社現代新書)』(木俣冬/講談社)

 4月に始まった今期の朝ドラ『ひよっこ』の視聴率が低空飛行らしい。といいつつも、『ひよっこ』から目を離すことはできない。なぜなら、やれ主人公を演じるのは誰だ、やれ舞台はどこだ、やれ視聴率が上がった下がったと、日本中がその動向に注目する朝ドラはそれ自体がドラマだからだ。そういうわけで、低迷していた朝ドラが復活したとされる2010年代の作品を中心に考察する『みんなの朝ドラ(講談社現代新書)』(木俣冬/講談社)は、まさに“朝ドラ”というドラマを描いた本のようで一気に読んでしまった。

 著者の木俣冬氏はドラマや映画、舞台などのルポルタージュを手がけるフリーライター。なかでも朝ドラはドラマレビューを掲載するサイトで放送された各話を考察し、記事を執筆している。朝ドラファンなら木俣氏の名前を一度は見たことがあるかもしれない。朝ドラを見尽くし考え尽くしてきた氏が満を持して執筆した本書は、何よりその作品が朝ドラの歴史の中でどんな位置づけとなるのか、どのように評価されるのかを知れて面白い。

 私は朝ドラにとって優秀とはいいがたい視聴者だ。作品によって見ていたり見ていなかったりする。『ごちそうさん』と『マッサン』はテレビやネットで評判がよかったので、その内容を確かめるべく総集編で見た。両作ともに付け入る隙のない夫婦愛は見ていて心地よかった。そして、片や二人が再会し、片や死が二人を別つ最終回は家族と一緒に見ていたために涙をこらえなければならなかった(朝ドラはこれが結構辛い)。本書によると、ほとんどのヒロインが何らかの仕事に従事するなかで、この2作品は『ゲゲゲの女房』とあわせて珍しく夫婦二人三脚で円満にすすむ物語だったという。そういわれてはたと気づく。どうやら夢を叶えようと奮闘するヒロインはもうお腹いっぱいで見飽きていたらしい。それよりも今流行りの“胸キュン”を朝ドラに求めてしまったようだ。

 一方、まさに夢にまっしぐらのヒロインを擁する『まれ』は、やはりストーリーに興味が持てず見ていなかった。木俣氏は、辛く苦しいことがほとんど起こらないままヒロインがとんとん拍子で夢を叶えていく世界をパラレルワールドのようだと酷評。ここ最近の作品のなかでひとつだけ平均視聴率20%を超えられなかったことに納得。そして、その人気ゆえに『あまちゃん』が最高傑作だと思っていた私は、ファッションデザイナーのコシノ三姉妹の母親をヒロインのモデルにした『カーネーション』がベタ褒めされていることに驚いた。木俣氏は、男勝りのヒロイン・糸子が父親や夫が次々と消えていくなかで“男”を超えたと指摘。さらにその巧みな演出とストーリーで“老い”と“死”をも超え、「従来の“朝ドラ”をも超えた」と評価する。

 これら最近の朝ドラは、伝説の朝ドラ『おしん』で明治から戦後にかけての女性の生き方を描き切ったことで、それに代わる新しい女性の生き方を描くようになったと分析される。各作品の考察は、朝ドラに限らずほかのドラマや映画・舞台も引き合いに出し、これまで木俣氏が行ったドラマ関係者のインタビューを取り上げ、男女雇用機会均等法などの法律の制定や地震・戦争といった歴史的背景も照らし合わせつつ、より広くより深く読み解くことに情熱が注がれている。朝ドラの一視聴者としては、漠然と見ていてなんとなく思っていたことやふわっとしか把握できていなかったことが明らかにされ、スッキリと整理された。そして、「やっぱり朝ドラすごい!」と普段そこまで必死に見ているわけでもないくせに改めて朝ドラ信奉者になりつつある。そもそも木俣氏をはじめ多くの論客にあれこれと語らせること自体、日本のドラマ界においてほかとは一線を画す絶大な求心力を感じる。

 まだまだ『あまちゃん』の何がすごかったのか、SNSの浸透で朝ドラがどう変わったのか、登場人物のセリフの妙など、本書には人と語り合いたいトピックがいっぱい。さて、『ひよっこ』の放送でドラマ“朝ドラ”はこれからどんな展開を見せてくれるのだろうか。視聴率はさておき、やっぱり見ておきたいかも。

文=林らいみ