SKE48須田亜香里が“劣等生”から「神7」になるまで。コンプレックスを力に変える思考法

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公開日:2017/5/30

『コンプレックス力 ~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~』(須田亜香里/産経新聞出版)

 2014年、AKB48シングル選抜総選挙の結果発表でそれは起こった。10位に選ばれたSKE48メンバー、須田亜香里はスピーチで明らかに頭が真っ白になっていた。落ち着きなくステージ上を動き回り、話の内容は支離滅裂、挙句にテレビの生中継が入っているにもかかわらず長々と話し続けてしまう。彼女の行動は「最悪のスピーチ」と語り継がれ、翌年の大幅なランクダウンに影響したとする意見も多い。

 それでも2016年、須田は晴れて「神7」入りを果たし汚名を返上する。いかにして彼女は苦難を力に変えたのか? 彼女の著作『コンプレックス力 ~なぜ、逆境から這い上がれたのか?~』(産経新聞出版)で語られる思考法は、努力が結果に結びつかないで悩んでいる全ての人におすすめしたい内容だ。

 本書は須田の生い立ちから幕を開ける。バレリーナを目指すも情熱を失いつつあった彼女の転機は高校三年生の夏。SKE48の三期生オーディション開催を知った須田は、ステージで踊るアイドルの姿とバレエに明け暮れていたかつての自分を重ね合わせる。応募して挑んだ審査結果は見事合格、彼女のアイドル人生が始まった。

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 しかし、道のりは決して平坦ではなかった。「自分が一番かわいい」という自信を奪われ、肝心のダンスも上手く踊ることができない。バレエの動きがしみついた須田はアイドルダンスになかなか対応できなかったのだ。家庭でもクラスでも「女王様」気分だった須田の伸びきった鼻はあっという間にへし折られてしまう。

 それでも須田が埋もれてしまわなかったのは、がむしゃらに努力するだけではなく、そこに思考が伴っていたからだろう。たとえば、握手会では人気のある先輩の対応をネットで調べ、自分に取り入れる。結果、「握手会の女王」と呼ばれるほどにファンから評価されるようになった。ダンスの居残り練習にしても、あえて関係者の目に留まるように意識する。こうした須田の行動を「あざとい」と思う人もいるだろう。しかし、須田は語る。

でも、“普通の努力”の他に、さらに「努力しています」というアピールをすることも立派な努力だと私は思います。

 須田の努力の象徴が「ダスノート」である。須田は自分宛に送られてきたファンレターの内容や、ファン一人一人の特徴をノートにつけてきた。ノートは11冊にもなり、アイドル須田亜香里の「大切な“一部”」となっている。須田は常に「求められている自分」「なりたい自分」を自覚しながら、「自分に足りないもの」を探し続けてきた。だからこそ、結果につながる努力の道を辿ってこられたのだろう。

「100%頑張る」と「100%できている」は違うんです。

 などのシビアに見える言葉も、常に自分の課題と向き合っているからこその実感なのである。

 しかし、須田に逆境が襲いかかる。人気メンバーにもかかわらず、若い世代を優遇する方針の煽りで、公演のポジションは常に最後列。総選挙でランクアップしても、世間から「ブス」と叩かれる。特に「肌が汚い」という心ない批判には深く傷つけられたと嘆く。そして、2014年、総選挙での「最悪のスピーチ」。翌年、順位を大幅に下げて選抜からも外れた須田は卒業を本気で考え始める。

 だが、暗闇の時代で須田は自分を見つめ直す。結果、アイドルとしての自分を壊し、一人の人間としてファンの前に立つことを選ぶ。楽しんでいる自分を見せることがファンへの恩返しになると気づいた須田は、SKEに加入してから初めて人とプライベートで遊ぶようになるなど、自然体で過ごしはじめる。もちろん、努力をやめたわけではない。これまでの努力があったからこそ、須田は自分の殻を破ることができたのだ。悩みも停滞も人を成長させてくれる糧だと、須田の生き方は教えてくれる。

 須田の努力が実り、2016年の総選挙で見事「神7」にまで上昇したのは記憶に新しい。本書では須田が悩むたびに前に進めた思考が克明に記されている。一人のアイドルの自伝であると同時に、自己啓発本としてもおすすめの一冊だ。

文=石塚就一