ダ・ヴィンチ本誌で、鳥飼茜のマンガ連載『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』スタート! ■記念対談(前編)岸田繁(くるり)×鳥飼茜

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2017/6/7

ダ・ヴィンチ7月号(6/6売)から、鳥飼茜さんのマンガ連載『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』がスタートする。新連載の舞台は、日常には男がおらず、女ばかりが暮らしている架空の世界のスラム。

以前から、くるりの大ファンだった鳥飼茜さんだが、本作は、昨年リリースされた『琥珀色の街、上海蟹の朝』に強くインスパイアされたという。折しも、岸田繁さんも11年にもわたる連載エッセイ『石、転がっといたらええやん。』が書籍化されたばかり。ここに、くるりのフロントマン・岸田さんとの貴重な対談が実現した!

※ダ・ヴィンチ7月号本誌には、鳥飼さんのインタビューも掲載。本編『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』とともに、そちらもぜひごらんください。

(右)きしだ・しげる●1976年、京都府生まれ。作曲家。ロックバンド・くるりではギター&ボーカルを務める。2016年に結成20周年を記念し、ベストアルバム『くるりの20回転』を発売。今年5月、岸田が初めて交響曲を作曲した『岸田繁「交響曲第一番」初演』がCD化された。

(左)とりかい・あかね●1981年、大阪府生まれ。2004年デビュー。10年より『モーニング・ツー』で『おはようおかえり』を連載し、『地獄のガールフレンド』『おんなのいえ』などで大きな注目を集める。現在、『先生の白い噓』『ロマンス暴風域』『前略、前進の君』を連載中。

『上海蟹の朝』は夢と現実の中間のようにイメージされて、
描きたいと思った世界観にとても近かったんです。(鳥飼)


僕も、もっとかわいらしく生きといたらよかったな、
もう取り戻せへんけど。(岸田)

  

鳥飼 19~20歳の頃から、ずっとくるりを聴いていて、ものすごく大好きだったんです。その後、生活の変化でくっついたり離れたりはあったんですが、去年の年末、ちょうど今回の新連載『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』を考え始めた頃に、シングルの『琥珀色の街、上海蟹の朝』、アルバムの『THE PIER』と『坩堝の電圧』をまとめて聴いて、「くるり、すごいことになってる!」と衝撃を受けました。とくに『上海蟹』には、がっつりインスパイアされました。

岸田 ほんまですか? 恐れ多いです。

鳥飼 ほんまです! 『上海蟹』、最初はラップっぽいなと感じて。

岸田 少し暗いですよね?

鳥飼 そうですね。でもノリがとにかく良くて、一気に持っていかれましたね。何度も何度も聴きました。全体的に埃が舞うような気だるい雰囲気で、同時にタフさがあります。上海という地名は出てくるんですが、架空の街のよう。一方で、今の社会を反映したようなシビアさもある。夢の世界と現実社会。その中間くらいがイメージされて、私が新連載でやりたいものにとても近かった。今まで現実社会に依拠してマンガを描いてきましたが、今回はそこから踏み出した架空の世界の設定に挑戦したいと思っていたんです。

岸田 僕はこの曲を書いたとき、もう専門の治療が必要なんじゃないかというくらい、ドーンと気持ちが落ちていたんですね。震災以降、自分の生活の変化もあって、基本的に“死”を連想させることは書かないようにしていたんです。僕はネガティブなことしか考えないタイプなので(笑)、現実のネガティブな部分を音楽になすりつけるというか、当て込むのは意図的にやめていた。でも、なんか『上海蟹』ではやってみようかなと。で、やっちゃった(笑)」

『地獄のガールフレンド』は4回読みました

岸田 実は僕、いますごく緊張していまして。鳥飼さんの作品を読ませていただいて、別にサービストークとかじゃなくて、ほんまに最近で一番、めっちゃ心を動かされてしまったんです。

鳥飼 うわー、マジですか。今日、来てよかった! 私こそ、めっちゃ緊張してます。

岸田 『地獄のガールフレンド』(以下『じごガー』)は4回読んだんです。

鳥飼 えーっ、ありがとうございます!

岸田 『先生の白い噓』は、『月刊モーニング・ツー』で連載してはるのを飛び飛びに見ていたんですが、怖くて通して読めなかった。今回、だーって全部読んで、やっぱりすごく怖いから、これ2回目読むの、いつにしよって思ってるんですけど。でも、すごく気になる(笑)。鳥飼さんも、これ描くの大変ちゃいます?

鳥飼 大変です。1巻の終わりくらいとか吐きそうになって、もうやめたいと。でも途中からドラマが盛り上がってきて、そこに乗っかってどうにか描ける。実は『じごガー』のほうが大変だったんです。仕事場にはアシスタントの女性が常時2~3人来てくれていて、本当にマンガのような感じで。それをそのまま描いていたんですが、アシスタントのメンバーチェンジや自分の身辺の変化もあって、だんだん等身大のことを撮って出しするのに疲れてきたんですね。

岸田 『上海蟹』で言いたいことは、ただ「上海蟹、一緒に食いたい」ってことだけなんです。でも、そこまでの思いを全部吐き出さへんと説得力が出てこない。好きな人に言いたいことってすごくシンプルなんやけど、そこに至るまでの過程を語らなきゃいけないときがある。僕は普段、わりとそれを避けてしまう傾向があるんですね。鳥飼さんは、『先生の白い噓』でその過程を全部描いているからすごいと思いました。

鳥飼 確かにそのためにキャラクターの出し方など、苦労している部分もあります。

岸田 『じごガー』でいいなと思ったのは、整体師の石原くん。あのかわいらしい男の子ね。彼を見て、新鮮やったんですよ。自分の中の感覚がすごく腑に落ちた。男の人も女の人にかわいらしいと思われたいという気持ち。それって、石原くんみたいに自分の中にもあったんやろうけど、今までまったく無視していたんですよね。

鳥飼 ああ、きっと避けてこられましたよね? エッセイ集の『石、転がっといたらええやん。』の中で、「男が、『雑貨』って言うのん、アウトやわー」って書かれてましたもんね。石原くんは言っちゃうんですよ、「雑貨」って。

岸田 このあいだ、たまたま20代後半の写真家とバンドのシンガーと飲みに行ったんですよ。もう一軒行きましょか、というときにファミレスと言われてびっくりしたんですよね。赤提灯じゃなくてファミレス。僕も家族とは行くんですけど、男3人でなんて高校以来やなと。「ヨーグルトフラッペなんとか、ください」とか言ってね(笑)。そんなことがあった後に『じごガー』読んで、僕ももっとかわいらしく生きといたらよかったなと思いましたね、もう取り戻せへんけど(笑)。

鳥飼 私、今36歳なんですが、ちょうど下の世代くらいから変わったように思います。男の人もかわいいと思われたい。ファミレス行こうとか、パフェ食べたいとか。ギリギリ、私と同世代の人は、「雑貨って何やねん」という感じだと思います。「かわいいって何? レトロってこと?」とか(笑)。40代以上になるとさらに極端で、据え膳食わぬは男の恥、みたいな考え方の人も多いと思います。

岸田 上の世代には何かしらの抑圧があるんでしょうね。政治家や官僚がいらんこと言うでしょ。それがオッケーやった時代から、賛否が半々くらいのときを経て、今は完全に前時代のものになっている。

鳥飼 女の人も年代や地域差で、考え方が違いますよね。私は大阪出身なので、たとえば九州出身の人には九州っぽさを感じます。

岸田 地域差はすごくあると思います。僕も京都出身なんですけど、初めて東北出身の人と付き合ったときには衝撃やった。今振り返ってみると、この地方出身やからそうだったのかなっていうことが結構あるんですね。恋愛だけやなくて仕事の上でも。とくに僕ら京都で、閉ざされたというか、長らく培われてきたものの中で育ったせいか、コミュニケーションでつまずくことがある。自分では当たり前の言語感覚とか、この気候でこのシチュエーションやったらこれを選ぶしかないでしょっていうのが、全然通じひんのですね。東京ではそういう地域差が、表面上は消臭・殺菌されているんですけれど、たまに違う地方同士ガチで話すと、日本、めんどくさって思いますね(笑)。

岸田さんが好きという加南の彼氏・石原くん(22歳)。彼氏というか彼女のようにかわいい。              (c)鳥飼茜/祥伝社フィールコミックス

>>『交響曲第一番』は僕のやりたい音楽