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最近よく聞くメディアドゥとは?――解説「電子書籍」


 「メディアドゥ」という会社をご存じでしょうか? LINEマンガへのシステムと作品コンテンツの提供をはじめ、電子書籍の世界における流通を担う会社(これを「取次」と呼んでいます)として存在感を増している会社ですが、どんな会社なのかはあまり紹介されていません。今回は取締役の溝口 敦さんに詳しく・分かりやすくお話しいただきました。

■メディアドゥは、電子書籍界の「問屋」

――とても基本的なところからですが、メディアドゥとは本や出版の世界で、どんな役割をしている会社なのでしょうか?

溝口 敦(以下、溝口):一言で言ってしまえば「問屋」です。電子書籍に問屋って必要なんですか? という質問もよく頂くのですが(笑)。電子書籍はデジタルですから、仲介する物理的な「モノ」がないじゃないかと。

 日本には大小あわせて3000以上の出版社があります。電子書店もAmazonやLINEマンガなど、皆さんがよく知っている電子書店から、規模が小さい専門的なところまで含めると私たちが取引しているだけでも数百あります。これらの出版社と電子書店が個々に情報のやり取りをするというのは、現実的に不可能なんですね。この間を取り持つ存在がやはり紙の本と同じように必要となってくるのです。

 ところがデジタルコンテンツ全般に言えることですが、配分される利益はアナログな商材に比べて大きくはありません。また私たちが頂く利益が大きすぎては、コンテンツの流通そのものが回らなくなってしまいます。そこで私たちは、このやり取りを効率化・最適化するためになるべくシステム化、つまり人手に頼らない仕組みを整えてきました。

――なるほど。その部分をもう少し詳しく伺えればと思います。つまり、AmazonのKDPのように電子書店には、著者や出版社が直接本を登録して売る仕組みも備わっています。にもかかわらず、メディアドゥがそこで間に入るとどのように効率化されるのでしょうか?

溝口:例えば、個人の作家さんの場合でも、電子書店それぞれと契約を結び、口座を開設し、自分の作品の価格を設定し、料率(売上に対しての手数料)を設定して、さらに書籍コンテンツやメタ情報(書誌情報)・発売日等の情報を、各書店が指定するフォーマットで登録する必要があります。

 さらに、全ての書籍が電子書店内でプロモーションしてもらえるわけではありませんから、自分でキャンペーン価格を一定期間設定したり、BLOG・Twitter・Facebookなどで告知したりといった作業も行わなければいけません。

 その結果、どう本が売れているのか? も電子書店から得られるレポートや、他のツールを使いながら分析し、さらに売り方をチューニングしていくことになります。売上が入金された後も、その金額が合っているかどうかを確認し、著者が複数名いる場合はその分配を行うといった手間も掛かるわけですね。

――煩雑ですね。それが複数の書店で……となればたしかに大変です。

溝口:著者や出版社もできるだけ多くの場所=電子書店で売りたいと願うものです。一方で電子書店の側からとっても、著者・出版社とのやり取りは負担ともなります。そこで私たちが間に入って、これらの情報を集約し、窓口を一本化してお渡しする形を整えてきた、というわけです。ご自身でこれらの煩雑な作業を行うよりも、我々に任せていただいたほうが、コストという面でも合理的だというご判断を頂けているのかと考えています。

■いつどんな本がどのように売れているのか? を集約する強み


――電子書籍の登録プラットフォームやフローが準備してあって、そこに必要なデータを入稿すれば、あとはメディアドゥがその後の一連の流れは代行してくれるということですね。

溝口:そうですね。電子書籍のEPUBファイルを私たちが各書店の指定するフォーマットに変換して、各書店にお渡しする場合もありますし、私たちが用意するサーバーから直接電子書籍を読者の皆さまに配信する場合もあります。売上レポートは各書店さんがそれぞれのタイミング、フォーマットで提供し、実際の出版社さん向けの売上伝票は私たちが用意することになりますが、LINEマンガのように私どものサーバーから直接配信を行っている場合は販売状況もリアルタイムで確認できるようになっています。

 紙の本の世界にも、書店での棚をどう確保するかが重要ですが、電子書籍のプロモーションについては3つのパターンがあります。講談社さんの「夏電書」のように出版社自らが企画し各電子書店に働きかけるもの。もう1つはそれぞれの電子書店側が企画するもの。さらに、私たちのような取次事業者が、過去の実績・他社の傾向も参照しながら、「こういう企画はどうですか?」と出版社または電子書店に働きかけるというものですね。

 電子取次であるメディアドゥには、いつどんな本がどのように売れているのか。といった情報が蓄積されています。それをもとに私たちが企画を持ちかけることもあれば、出版社からの企画を私たちが各書店への働きかけるということもあります。そうすることで、本そのものの販売状況だけでなく、プロモーションの実施内容や結果などもやはり集約して出版社にレポートすることが可能になるわけです。

 紙の本には再販制度という決まりがありますので、キャンペーンと銘打って価格を変えることができません。しかし電子書籍ではそれが可能です。また、元々はモノクロだったマンガをカラーにして新たな価値を生むという手法もあります。そういった取り組みについて私たちが間に入って調整をさせていただく、ということですね。

■音楽のデジタル化の流れを追うように出版界が


――Amazonなど電子書店自らが値下げしてプロモーションを行ったり、読み放題に加わったりということもありますが。

溝口:それは電子書店さんとの契約に依ります。そのような契約で行われるキャンペーンには私たちは介在しませんが、そうでない場合はいまお話ししたような提案を行いますね。例えば、LINEマンガでは私たちが取次を一手に担っており、プロモーションも一元的に管理してLINEさんと出版社さんと調整しています。

 定額読み放題サービスは、本の読み方の選択肢を拡げるものだと私たちは捉えています。読者にしてみれば全ての本が読み放題であれば嬉しいわけですが、大切な事は作り手にちゃんとその利益が還元されることだと思っています。そうでなければ、次の作品が生まれないからですね。創造のサイクルが回ることがとても大事なことだと考えています。

 私自身はNTTドコモで音楽配信サービスをずっと担当してきました。メディアドゥも当初は音楽配信サービスを手がけ、そこで業績を拡大してきました。私とこの会社との接点もそこからなのですが、15年以上前から、音楽の世界ではデジタル化そして、聴き放題のあり方についての議論と様々な挑戦がありました。

 音楽の世界では現在、そのある意味での「答え」が私たちに示されているわけです。出版の世界ではこの議論がつい最近始まったばかりですから、いままさに「答え」を探っている段階ですね。メディアドゥも音楽配信では後発となり大きなシェアが取れなかったのですが、その経験を活かして「書店の立場ではなく、本というデジタルコンテンツの流通を促進する」という「取次とシステム供給」する立場で出版の世界では先行することができたので現在の姿があります。

 読み放題の有力サービスの中には雑誌の読み放題モデルが複数立ち上がっていて、雑誌がよく読まれています。読者には好評ですが、作り手である出版社にとっての「創造のサイクル」を永続的に回すものかどうかは、まだまだ推移を見なければならない段階ではないかなと私は考えています。

――読み放題については、日本市場を特徴付けている巻数の多い「マンガ」の存在も大きいですね。

溝口:電子書籍の初期のころは、「1話無料」すらありませんでしたからね。冒頭だけを読んでもらうサンプルがせいぜいでした。いまや3巻無料とか、期間限定で全巻無料もあったりします。読者が支持していることはもちろんですが、こういった取り組みがマンガを読む人の母数を増やし、ひいてはマンガを買う人や額が増えるという創造のサイクルを回しマンガ産業全体のためになる、ということを皆が理解したからですね。

 現在メディアドゥの傘下には、出版デジタル機構(2012年に電子書籍の普及を目的に出版大手・印刷大手と産業革新機構が出資して設立された株式会社。今年3月にメディアドゥが子会社化)があります。我々はマンガに強みがありましたが、出版デジタル機構は文字主体の本に強みがありました。出版デジタル機構と一緒になることで、文字主体の本でも、新しいサービスモデルを含め、デジタルならではの取り組みを強化できると考えています。

――読み放題も含めたプロモーションに際しては、どのような期間・価格にすればよいのか。 という最適解を探るためにはまさに蓄積されたデータが活かされるわけですが、メディアドゥではデータを扱う体制はどのようになっていますか?

溝口:ビッグデータそのものだけを扱う専門チームがいるわけではなく、出版社・電子書店に対してそれぞれ営業チームがあり、データを見ながら担当する出版社・書店がどのような取り組みを行えば売上が最大化するかを日々考えて提案しています。業界全体としても電子書籍への取り組みの歴史が浅いこともありそこではデータだけがものを言うわけではなく、各社との信頼関係や経験に基づく「勘」も重要だと思っています。

■メディアドゥ、買収の狙いとは?


――なるほど。扱う商材はデジタルだけど、アナログな部分も重視されているわけですね。そういった取り組みを進める一方で、先ほどの出版デジタル機構をはじめ、矢継ぎ早に買収を行っています。これにはどういった狙いがありますか?

溝口:これは代表の藤田(藤田恭嗣氏)もよく言っていることですが、一言で言えば「仲間を増やしたい」ということですね。マンガを始めとした日本のコンテンツが世界中で読まれるようになってほしいし、日本で本を読む人がもっと増えてほしい。それがひいては文化・教養を通じて、日本という国を豊かにすることだと思うんですね。

 紙の本でももちろんできることというのは沢山あります。そこを置き換えたいということではなくて、デジタルならではのできることをやっていこうとしたときに、私たち単独でやれることもあれば、仲間を見つけて早くやったほうがいい場合もあります。それが買収という形になっているということですね。

 本の要約を提供するflier(フライヤー)や、マンガのレビューを届けるマンガ新聞(マンガHONZ運営)、マンガのカラーリングや作画支援を行っているアルトラエンタテインメントを買収、マンガ作成や投稿サイトを手がけるメディバンと資本業務提携したのは、経営陣同士の話しあいの中で求める理想――例えば先ほどお話ししたような「創造のサイクル」が回っているといった状態――に早く到達するには一緒になったほうが良いという結論に至ったからなんです。

――その理想という話にも通じるのですが、読者から見たときにメディアドゥという存在は本を読むという体験をどのように変えていくのか。そのあたりのお話も伺いたいと思います。

溝口:日本では毎年、毎月膨大な量の本が生まれます。どんなに本が好きな方でも、全てに目を通すことは不可能です。私たちが取次として情報を集約し、flier・マンガ新聞などのサービスを通じて作品を紹介することで、読者の方に効率的に情報を届けることができるようになると考えています。

 flierについてはメディアドゥが出資するエイアイスクエア社のAI技術を用いて自動要約の作成を進めています。また1章・1話単位の求めやすい価格でお届けしたり、書店での立ち読みを擬似的に体験できる事を考えたり、電子書籍を見つけやすいようにウェブ検索とより相性のよい形で提供する、といったこともデジタルならではの本の届け方となっていくでしょう。

 また普段あまり本を読まない人に対しても、本の魅力を伝えて、その利用を促していきたいですね。出版市場に元気がない、と言われていますが、本が面白くなくなったわけでは決してないと思うんです。

 いま電車に乗っていても、本ではなくスマホを皆さん見ていて、チャットやゲームをしている。そこで本を開いている時間を増やしていきたい。数あるアプリの中で電子書籍に関するものを利用してもらうためには、例えば全部読むには2時間くらいは掛かってしまう本を、目的地までの5分間でまずは要約を読んでしまうことができる、というflierのような選択肢があるのはとても重要なことなのです。

 デジタルによって、マンガに触れる時間というのは増えているはずです。話題の新刊だけでなく、ネットを通じて「こんな作品があったんだ」という出会いが増えているからです。マンガHONZなどの漫画メディアを運営するマンガ新聞はそういった出会いをさらに増やし、マンガを通じたコミュニケーションを促進するものに育てていきたいと考えています。

――本の流通に関わる膨大な情報を仲介するだけではなく、そこで蓄積される情報をもとに作品との出会いを生みだしていくことにもメディアドゥが取り組んでいるということがよく分かりました。本日はありがとうございました。

取材・文=まつもとあつし



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