元小学校講師が見た、外国人だらけの小学校の日常

マンガ

更新日:2017/8/7

『外国人だらけの小学校はツッコミの毎日でした』(あらた真琴/ぶんか社)

 20年ほど前に私がフリースクールで外国人の子供たちに日本語を教えるボランティアの手伝いをしていた頃は、まだ地元の小学校でも外国人の子供は少なかった。所属していた民間の教育団体がペルー民族音楽のコンサートを企画したさいに、地域の小学校に通っている在日ペルー人の子供たちを無料招待しようと役所に問い合わせてみたら、外国人の子供の在籍については把握していないと言われたくらいだ。そしてコンサートの後援を取りつけた教育委員会からは、他の国の子供たちに不公平で差別になるから、小学校の外国人の子供たち全員を招待してほしいとの要請を受けた。役所でさえ対象者を把握していないうえ、会場の収容人数を超えてしまう可能性もあったため、招待については断念することになった。

 それから時は過ぎ、2005年に文部科学省が実施した調査によれば、日本の公立の小学校で日本語教育が必要な外国人の子供は約1万人以上で、都市部では1クラスに10人近く在籍しているらしく、元小学校講師だった作者による『外国人だらけの小学校はツッコミの毎日でした』(あらた真琴/ぶんか社)は、そんな小学校が舞台のコミックエッセイだ。

 やはり問題になるのは「言葉の壁」であり、日本語での言い間違いや漢字の誤りをモグラ叩きのように訂正する作者の姿には面白さと同時に苦労が滲む。ただし、それは小学校なら日本人の生徒でも同じことだろう。作者の勤務していた小学校では、作者が外国人の生徒に勉強の質問をすると、答えられない子の後ろから別の子がポルトガル語で教えてあげたり、喧嘩を作者に止められて仲直りの握手をしたところで、ボソッとポルトガル語で悪態をついたりと、言葉の壁を上手く使っている様子が微笑ましい。それから、3人の生徒がそれぞれポルトガル語と英語とタガログ語と別の言語で話しているのに、どうやら会話が成立しており作者が驚いていた。子供の順応能力は、なかなかに侮れない。

advertisement

 そして文化のギャップは時として軋轢を生むけれど、その差が面白く感じるのも事実。作者が生徒たちにお祭りで浴衣などを着るのか尋ねると、日本人は着ないという答えが多いのに対して、外国人は着ると答える子が多いらしく、男子は甚兵衛羽織を着たり、中には毎年新調したりしている子もいて、日本人より伝統文化を大事にしているようだ。そのうえアメリカ出身の男性の先生にいたっては来日の理由が、日本の子供たちに英語を教えることと、「日本中ノガチャガチャヲ制覇スルタメ!!」なのだとか。休みの日に京都の祇園祭に行き、広島でお好み焼きを食べ、自動販売機の前で自撮りをして日本の生活を満喫している様子に、読んでいてほっこりした。

 本書は漫画として面白いエピソードをチョイスしているというのもあるのかもしれないが、子供たちの奇想天外な発想や行動は、驚かされつつも気持ちが和んだ。最後の方には、卒業した子供たちと再会したときの話も載っており、面影が残っている子もいれば、劇的に変わった子もいる中で、登場人物紹介のページに「とにかく自由人」とあったアレンくんは、まったく変わらない模様。本書では、小学校の卒業後も間違えて登校してくるといった伝説を残したうえに、本作品としてのオチもつけてくれた。

 今年の6月には国会閉会の直前に「改正国家戦略特区法」が参院本会議で与党などの賛成多数で成立し、農業分野の他に観光などのサービス分野でも外国人が就労できるよう日本での在留要件が緩和されるそうだから、これからますます外国人の子供たちが増えるだろう。この異国の地で、日本人の子供たちと一緒に健やかに育ってくれることを願うばかりである。こう書くと、日本以外の国で暮らす子供たちへの差別だと、どこからか指摘されるだろうか。

文=清水銀嶺