キュレーションサイトや口コミサイトに対する不信感の揺り戻し!? 『LDK』×『レタスクラブ』編集長対談【2】「企画」のつくりかた

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更新日:2017/7/28

(左)『レタスクラブ』松田編集長(右)『LDK』木村編集長

■編集会議に企画書はいらない

木村 この前、DeNAが「WELQ」でやらかしたじゃないですか。あれって、なんでああいうことになったかっていうと、結局、自分たちでちゃんとした内容をつくれないからなんですよね。

松田 そうそう。

木村 書籍や雑誌の編集者は、いい加減な記事がどれだけ罪深く恐ろしいことか、経験上刻み込まれている人が多いですから、信頼性のあるものを作る。その違いが、ネットのユーザーにもわかってきたんじゃないかと思うんです。キュレーションサイトも、いろんなところから情報をとって勝手に掲載してる。『LDK』も、発売日には特集した商品の評価を盗まれて「出典:『LDK』」とか書かれちゃっているわけです。料理雑誌のレシピも絶対、やられてますよ。そのままコピペしないで微妙に言い換えするマニュアルとかもありますから。

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松田 そうなんですよね。でも、全部チェックできないですからね。

木村 口コミサイトのやらせも多いですし、WEBの情報に対する不信感が強まっていると思うんですね。そんななかで信頼と共感を得られる雑誌が、最終的には生き残るんじゃないかなと思ってるんです。

松田 私も本当にそう思います。そういう意味で言うと、『LDK』さんはそのど真ん中を進んでますよね。

木村 いや、なかなか難しいですよ。

松田 どういう流れで企画を立てて記事をつくっているんですか? 

木村 「どういう会議をやっているんですか?」っていうのもよく聞かれます(笑)。僕が編集長になってからまだ1年ぐらいなんですが、それまで会議が大嫌いだったんです。

松田 え、まだ1年なんですね。その前は何を?

木村 『MONOQLO』っていう男性誌をやっていて、途中で副編集長として『LDK』に異動になって、そのあと編集長になったんです。

松田 そうだったんですか。

木村 もともと、会議とは関係なく思いついた企画を編集長に直接メールして、流されたり採用されたりしていて。まあ、企画アイデアってそんなもんじゃないですか。

松田 うんうん。

木村 実際、全員が集まっての編集会議って、もちろん良いネタもあるけど、直前にネットから引っぱってきたような付け焼き刃の企画とか、捨て案とかも出てくるから、時間のムダが多い。私も部員の立場で「企画会議するから企画案用意して」と言われたら、捨て案とか混ぜ込んだ用紙を用意しますよ。

松田 わかります。うちも、デジャヴ感がある企画が多いですね。

木村 さっき見たニュースとか、去年の同じ時期の企画とか。

松田 そうそう! 過去やって売れた企画から離れられない。

木村 だから編集会議はせずに、企画は全部自分のほか、副編、デスクあたりで決めることにしたんです。そのかわり一般部員には「面白い企画を考えついた人は、メモでいいからその都度メールくださいね」って話をして。そしたら送ってくる人と来ない人、分かれましたね。一度でも企画を送ってきた実績のある人は成長が早いです。

松田 メンバー間で差がついちゃうんですね。

木村 基礎能力の高いスタッフが多い編集部なので、そういうところで違いが出ると思います。それが採用されるかされないかなんて問題ではありません。そういう視点で仕事をしているかということが大切なんです。

松田 うちの編集会議は最初、シーンとしてお通夜みたいでした。各自シートに書いてきた企画を、ひとりひとり読み上げていくんですけど、それに対するツッコミや意見の飛ばし合いもない……みたいな感じでした。私の圧がすごかったのかな?(笑)

木村 僕もシート読み上げ系の会議とか、そういうのは嫌だったので、自分がやりたいように1年間やってきたんですけど、企画を出す出さないの自主性だけをあてにするのではなく、部員が思ってることを吸い出す必要も大切だと思うようになったので、この秋からブレスト制の会議を行う予定です。紙に企画を書いてくる必要はないからねと言って。

松田 うちも紙に書くのはやめました。書くことに一生懸命になってしまうので。それよりは発想や発言、ブレストから生まれる実感を大事にしてほしいんですよね。

木村 わかります。

松田 だから今は、みんなでワイワイ話をしながら、そこで出たネタをどんどんホワイトボードに書いていって、意見を飛ばし合いながら企画を決めてます。ただ、私自身は記事はつくらないので、最後に決まった企画が実際に実現可能かどうかを現場担当のメンバーに聞くんですよ。

木村 じゃあ松田さんは司会役なんですね。

松田 はい、ついでに書記もやってます。

■主婦層の実感に勝るモノはない

木村 副編集長に関してはどのような体制ですか?

松田 副編集長は3人いて、お互いフォローし合える体制をつくっています。子育て中だったり妊娠中だったり、みんな帰宅すれば一介の主婦だから、フォローし合わないと現場仕事は難しいんですよ。夜や休日に仕事が入ることもありますから、みんなで助け合わないとね。

木村 主婦の編集者が多いんですね。

松田 そうなんです。生活の実感にもとづいた情報やアイデアはすごく役に立ちますね。そういうのって企画書だと出てこないんですよ。実感ってすごく大事なので、それを拾って企画として広げていってます。

木村 実感がある企画が出てこないと、昔やったあの特集号が売れたからとか、あの企画の数字がよかったからとか前例や数字にとらわれて、その焼き直しみたいなことをするとはじめは輝いていた企画が、本質がなくなってどんどん劣化していくんですよ。

松田 おっしゃるとおり!

木村 時代はどんどん変わっているのに、過去にとらわれると思考が止まっちゃいますよね。それで売れないと、前にも話した通り「雑誌はもう売れなくなったから」とか時代のせいにする。

松田 表紙のこの字が目立たなかったとか、色が悪いとか、デザインのせいにしたり。

木村 それ、あるある(笑)。結局、さきほどの主婦の実感値の話のように、『LDK』も生活者目線をいかに大事にするかなんです。特に、我々は広告を気にせず言いたいことを言えるのが強みなので、読者の立場で考えた企画しか採用しないですね。

松田 テストする商品も全部、編集部で買ってるんですもんね。すごいですよね。

木村 たまに批評OKで貸してくれるところもありますが、基本購入です。原価を考えるとまったく採算が合わないので、本誌での利益はあてにしてません。ただ、本誌でやって好評だった企画をどんどんムックにしてるんですよ。すでにある素材をもとに再編集すれば、原価が抑えられるので、ムックで採算をとるようにしているんです。月に4、5冊は出してますね。コストコの本とか、無印の本とか、節約の本とか。

松田 うちも、もともと10日と25日の隔週刊だった『レタスクラブ』を25日だけの月刊化にしたタイミングで、10日の発売日にムックを出すようになりました。こちらもなかなか好調に推移してますよ。

取材・文=樺山美夏

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