子どもが生まれて、その後どうですか? 劔樹人×犬山紙子×赤ちゃん 家族鼎談(1)

出産・子育て

2017/8/2


家事の先にある“ペーソス”と、妊娠にまつわる“不安要素”がテーマの2冊
 

 2014年に結婚した劔樹人さんと犬山紙子さん。このたびご夫婦ほぼ同じタイミングで『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』(双葉社)と『私、子ども欲しいかもしれない。 妊娠・出産・育児の“どうしよう”をとことん考えてみました』(平凡社)が出版されました。2冊に目を通してみると、一緒に読むことで多面的に楽しめることがわかり、2017年1月に生まれた娘さん同席のもと、本のこと、家族のこと、そして子どものことについてお話を伺ってきました。

 

■“家事あるある”の先にある感情を描きたかった

――犬山さんから「お金は私が稼ぐから、結婚して家のことをやってほしい」と言われて結婚した劔さんが、実は全然得意じゃなかった慣れない主夫業に悪戦苦闘する日々を描いた『今日も妻のくつ下は、片方ない。』はどう始まったんですか?

劔樹人(以下劔) 漫画が2冊出て、それのおかげで描く仕事が増えてきたから、やってみたほうがいいよ、ってこの人に言われて。

犬山紙子(以下犬) なんだかんだで描き始めるまでに1年くらいかかったんだよね?

 今まで描いた漫画は、最初の時点でこうやって始まってこうやって終わる、という構想があったんだけど、これは日々のことだから構想が浮かばなくて……それで渋ってしまって。自分の中でギャグ漫画っぽいのはやめようとか、そういう謎の基準があったり。しかも自分のブログでやるものだったから締切もなくて。他の仕事は締切があるから、どうしても後回しにしてしまったんです。

 つるちゃんが家事のことについてブログに書いたときに、雨宮まみさんが「これは絶対そのうち単行本になる」って予言していて、そしたら双葉社さんが声をかけてくれたんだよね。私はまみさんのひと言、うれしかったな。だから周りからの期待は高かったんですよ!

 期待は、ね、そうですね……(笑)。でも「家事あるある」みたいなものを排除したから、思ったよりもマニアックだったんじゃないか、家事の話だと思って読んだ人の想像と違ったんじゃないか、って気が今もしてて……

 家事あるあるというよりは、家事をやる人の気持ちにフォーカスがあたってるよね。

 そう。あるあるの先にある感情、みたいなものを描きたいなと思ったんで。

――あとがきに「男はつらいよ」シリーズのような「最初はくだらなくて笑えるのに、最後はなんとなくしんみりした気持ちになる」というストーリーにしたかったとありましたね。欄外のボヤキっぽいひと言も含め、ペーソス溢れる切なさと何とも言えない余韻がたまりませんでした。

 そうですね。ペーソス。僕はそれしかできないというか、それが自分でやっていてこだわっていることなんです。まあ今どきあまりペーソスって言葉も聞かないですけど(笑)。

 でもつるちゃんは1話描くのにドえらい苦労してたもんね。自分が何を感じたかとか、哀愁とか、そういうのを落とし込むのが大変だったみたいで。でも読むとそんなに悩んで描いてないみたいな感じだけど……めちゃくちゃ悩んでたね。


 悩んでコレ? って感じはあるかもしれないけど、ホント悩んで描いたんですよ。だからこういう場で「努力したんです!」ってことを言っておかないと、なかなか伝わらない(笑)。

■妊娠と出産に関する不安要素を取り除きたかった

――犬山さんの『私、子ども欲しいかもしれない。 』は、32歳で結婚されてからずっと悩んでいた「子どもを持つかどうか」について、子どもがいる人、いない人、欲しい人、そうでもない人、様々な立場の方に妊娠・出産・育児についてのお話を聞いていますね。

 結婚する前に私、卵巣嚢腫になったんです。それでその手術から1年は逆に「ラッキータイム」で子どもができやすいですよ、と言われて悩んだんですね。でもそのときはまだそのタイミングではないな、と思ったんです。

 それで私、昔から「当たり前に子どもが欲しい」というタイプではなかったので、みんなはどう考えてるんだろうと思って、子どもを産んでいない友だちに聞いてみたんです。そうすると自然に欲しいと思ってる派、全然思えない派、どうしたらいいかわからない派などがあって、私と同じくやっぱりみんな悩んでるんだな、じゃあ色んな人に話を聞いてみようというのがきっかけになりました。私はとにかく石橋を叩いて叩いて叩いて、不安要素を取り除かないとダメなタイプなんですよ!

 ホントそうなんです(笑)。

 それで何か参考にできることがあればと思って色んな方に話を聞き始めたんですけど、聞けば聞くほど「ああ、私はこう思ってたんだな」と自分と向き合うことになって、“内なる心”を解きほぐされましたね。読んで下さった方からも「自分の気持ちを整理できた」という感想が多いんです。

――33歳で「欲しいかも?」と悩み始めて、34歳で妊娠、35歳で出産されることになるわけですが、妊娠中「『妊婦』というカテゴリにギュウギュウと押し込められる感じがとても苦手だった」とお書きになっています。


 皆さん善意なので何も言えなかったんですけど、「妊娠してから顔が優しくなったね」とか「文章から母性が出てるよ」なんて言われると「いやいやいや!」って。もしかしたらホルモンみたいなものが出てそういうのはあるのかもしれないけど、軸はそれまでの私と何も変わらないんです。でもそこがスポンと取れて勝手に“聖母扱い”されるので、「考えてみて! 私、聖母と真逆の人間!」みたいなことをすごく言いたくなっちゃって。それまでの自分が無視されているみたいな、寂しい気持ちになっていきましたね。

 しかも妊娠したらシミはバンバン出るわ、乳首は黒くなるわ、お腹はダルダルになるわ、体の変化がもうすごくて! そういうのって妊娠する前にそんなに覚悟してなくて。それまでの私にとって「見た目」というのはとても大事なことだったんですけど、それが一気にガラガラと崩れ去って、そのことを受け止めるのが難しくて、ツラいという空気もなかなか出せなかった。妊娠したら「とにかく幸せです」ってずっと言ってないといけない雰囲気があるんですよね。でも妊婦だってツラいときはツラいし、幸せなときは幸せなんですよ。もちろん妊娠してるから体が変わるってことは頭ではわかってるんです。でも鏡を見たりすると、とても傷つくんですよ。

 それは僕もすごく感じてたし、普通の人よりも過剰に反応するはずなので、見た目のことはなるべく言わないようにしてました。

 見た目に関しては何も言わないで、って事前に伝えたよね。考えなしに「しょうがないじゃん、妊娠してるんだから」ってつるちゃんから言われたら傷つくな、と思って。

 それを言ってたら、妊娠中の生活はだいぶまずい状況になっていたかもしれません。

劔樹人×犬山紙子×赤ちゃん 家族鼎談(2)に続きます

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ) 写真=花村謙太朗

[プロフィール]
つるぎ・みきと ミュージシャン、主夫、漫画家。1979年新潟県生まれ。大学時代からベーシストとして活動。2008年にバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」に参加。その後バンド「神聖かまってちゃん」の担当マネジャーとして活躍。現在は主夫業と子育て、執筆業をこなす毎日。著書に『あの頃。男子かしまし物語』『高校生のブルース』。

いぬやま・かみこ 作家、タレント。1981年大阪府生まれ。2011年、ニート時代に出会った美人なのに恋愛が上手くいかない人を取材した『負け美女』でデビュー。雑誌連載やラジオ、テレビ出演などマルチに活躍中。著書に『言ってはいけないクソバイス』『マウンティング女子の世界 女は笑顔で殴りあう』(瀧波ユカリとの共著)など。