子どもを「自分のもの」として育てちゃうと、子どもがツラい――劔樹人×犬山紙子×赤ちゃん 家族鼎談(3)

出産・子育て

更新日:2017/8/4


産んでも産まなくてもどっちにも幸せな道がある。一生懸命生きてたら楽しくなる!
 

 結婚に至るまでとその後の日々を描く『今日も妻のくつ下は、片方ない。 妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』、そして妊娠・出産・育児に関するあらゆる疑問をいろんな立場の人にとことん聞く『私、子ども欲しいかもしれない。 妊娠・出産・育児の“どうしよう”をとことん考えてみました』は、まだ結婚のことなんて全然考えていない人も、結婚しているけど子どもがいない人も、子育て真っ最中の人も、すでに子どもが独立した人も、これまで縁がなくて独身の人も、男も女も老いも若きも関係なく読んで知ってほしいこと、そしてそのことを考えてもらったら日々もう少し幸せに生きられることがぎっしりと詰まっています。

 

■子どもの人生は子どものもの……だけど、おっさんの塩はダメ!

――『私、子ども欲しいかもしれない。』で、「赤ちゃんというのはお母さんの分身とか、お母さんの所有物とかじゃなくて、違う人間なのだ。母親と子どもの人生はセットじゃない」と気づくところ、ハッとしました。最近問題の「毒親」や「DV」などの原因になりかねないものですよね。

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犬山紙子(以下犬) 私も口では「子どもには自由にさせた方がいいよ」なんて言ってたんですけど、ふと振り返ると、私は自分の母の介護をしているから、娘もいつか私の面倒を見るのが当たり前、という思考回路が実はあるんじゃないか、ということにゾッとしたんです。頭では理解していても感情が追いついてなければ意味ないな、ということを人の話を聞いてハッとして。子どもを「自分のもの」として育てちゃうと、子どもがツラいですよね。

 だからこの子の人生にレールを敷いたり、お膳立てをするとかではなくて、この子が自分で生きていくためのお手伝いができたらいいなって。これから色んな人から価値観をもらって成長していくので、それを私は応援する立場で……って思ってるんだけど、口うるさく言っちゃうんだろうなぁ~! 精進せねば。

劔樹人(以下劔) ウチは両親共働きで自由に育てられたので、僕はナチュラルにそう思ってますね。自由にしたらいいんじゃない、って。ウチの家族って、仲悪いわけじゃないんだけどベタベタしてないんです。母親からも「大学に入ったら家から出て行け、新潟にいるな」って高校生のときから言われてました。自分でやって行け、という感じだったから。

 すごく自由にさせてくれたんだよね。私はそんなつるちゃんのご両親、めっちゃいいなと思ったんです。最初につるちゃんのご両親にお会いするときに、猫かぶってると後で絶対ボロ出てしんどくなるから、最初に自分がどんなことが苦手だとかいうのを全部話したら、サラッと受け入れてくれて。なんて器がでかい人たちだ、と!


 親には「最近何やってんだ」とは聞かれますけど、「こうしろ」とかは言われたことなかったなぁ。僕がそうだったから、子どもにこうなってほしいとかあるわけじゃなくて、やりたいようにやったらいいんじゃないかなと思うんだよね。

 あー、そんなこと言いながら……つるちゃんの男友達がウチに来て赤ちゃん抱っこすると、腕をペロペロ舐めることがあるんですよ。汗かいて塩気があるんでしょうね。でもつるちゃんはそれを死ぬほど嫌がる(笑)。

 それは嫌でしょ!!!

 私が「うわーっ、おっさんの塩を舐めてるよ!」って笑ってたら、ホント鬼の形相で取り上げて!

 なんでそんなことを受け入れられるんだ!

 それを見てると「ああ、つるちゃんも娘を持つお父さんなんだな」って思う(笑)。

 もちろん自由にしていいけど、変な男につかまっちゃいけない、っていうのはあるよ!

 そうそう、そこなんだよねぇ。将来、私が大ッ嫌いな「クソ男」を連れてきたらどうしようって思う。「あんた、あいつと別れなさい!」とか頭ごなしに言わないようにしなきゃ。いや、DV男とか本当にやばい相手だったら無理にでも引き離すけれども。そうじゃない場合は、選択して経験をするのは娘本人ですしね……付き合うな、じゃなくて私はこう思うという意見、あと転んだ時の対処法を伝える方向で頑張るよ。

 散々「自由にしていい」とか言ってるから、やっぱりね(笑)。

 娘の話は「いいんじゃない?」って聞いて、後でつるちゃんにボロクソ言おう!

 でもそのときに僕がどういう感情になってるかわからないよ?

 そうか! おっさんの塩を舐めるだけであんなになるんだしね!(笑)

■「屁の風」ってなに?

――劔さんは家事漫画の次はどんなことを描いてみたいですか?

 育児漫画を描いてみたいなと思うんです。

 ネタはけっこうメモしてるよね。

 一度そのネタを勝手に見られたんですよ。

 しょうもないこと書いてたよね?(笑) なんだったっけ?

 「屁の風を感じる」でしょ。

 あ、そうそう! なんかつるちゃんのメモって1行だけで、情緒というか、たぶんそのときの気づきの感情をメモしてるんだろうけど……それってなんの暗号?

 オムツを替えているときに娘がプーっておならをしたから、うんち出るのかなって身構えたら、もう一回おならが出て、風を感じたんですよ。その爽やかな感覚というか。

 爽やかな感覚!(笑)

 それをメモしてました。

――おっぱい飲んでる期間は、そんなに臭くないんですもんね。

 最近離乳食を始めたので、ちょいちょい臭くなってきたね。

 でもまだタンパク質食べてないから、大丈夫!

■みんなの理解が深まれば、いろいろ変わるきっかけになる


 私は、この本を会社のお偉いさんとか政治家の方とか、権力のある人にもすごく読んでほしいんですよ。妊娠しながら、子育てをしながら働くことの実態だったり、みんながどんなことを考えたり感じたりしていて、どうしてほしいと思っているのかを上に立っている人たちに知ってほしいんです。そういう人たちの中にはまだまだ、「ウチの奥さんのときは全然平気だった」とか言っちゃう人がいたりしますから。

 こういう問題って「自分と関係ない」って切り離してしまうと、「セクハラとか◯◯ハラっていっぱいあるから、もう何も言えないよ」みたいにすごく扱いが雑になる。妊娠、出産もそうで、ひとまとめの雑な対応ではなくて、相手が今何を感じているんだろうってことを考えるために、当事者たちの声を知ってほしいんです。対個人に「この人はこういうのが嫌なんだろうな」という想像力があるだけで全然変わるのに、って思うんです。

――妊娠初期はなかなか周りに妊娠したことを言いづらい雰囲気があることや、子どもを持つことでかかるお金のこと、働き続けるために必要な保育園や家事代行サービスなどのことも載っていますから、色んな方に読んでもらえると、職場や社会が変わるきっかけになりますよね。

 本当に保育園の問題なんかは深刻ですよね。しかも保育園造ると騒音がどうとかもありますし。こういうのは行政だけの問題というよりも、もっと根深いものがあるなと思いますね。

――みんなが考えて、ちょっとずつスペースを空けられると、幸せに生きられるはずなんですよね。ところで、2人目って考えてますか?

 そこなんですよね~。またつるちゃんは、私が子ども欲しい、どうしようのときと同じ戦法で、僕はどっちでもいいよって。

 まさにその戦法取ってます(笑)。でも僕は偽らざる気持ちとして、僕はこの子ひとりだとしても、それは3人で楽しげな生活になるのが想像できるし、もし弟とか妹がいたらそれはそれで楽しいだろうなって思うんです。ただもう一回妊娠から出産の苦労を、しかも子育てしながらするのか、っていうは確かに恐ろしいものはありますけど(笑)。まあそれはそのときのことだと思えば、というくらいの気持ちでいます。

 私も最初は2人目のことは考えてなかったんですけど、産んでしまうと赤ちゃんがあまりにも可愛くて。しかも赤ちゃんの時期って一瞬で過ぎ去ってしまうんだなと思って、「あ、これ既視感あるな?」と考えてみたら、仙台の実家で飼っていた柴犬の“コロッケ”のことだったんですよ。コロッケが子犬だったのって一瞬だったので(笑)。

 僕は赤ちゃんとか、小さい頃がいいっていう感覚はあんまりなくて、早く大きくなってほしいなぁ。小さいと心配で心配で。

 あー、「すぐ死ぬんじゃないか」問題ね~。確かに私も甥っ子や姪っ子の面倒を見ていて、一緒に公園に行って遊具とか見ると「こんなん落ちたりしたらすぐ死んでしまう!」と焦ったなぁ。

 そうなんだよ。だからほっといても自分で生きられる、死ぬ危険性が低くなるくらいまで早く大きくなってほしいなと。だから2人目にはそういう不安もあったり。

 一人っ子でも可哀想だとは全然思わないんだけど、私は今年36歳になるので、高齢出産なんですよね。リミットがある中で、さらにお金の問題もある。それともう一回仕事を休まないといけない、そうすると仕事がなくなるかもしれない、迷惑もかけてしまうかもしれないというのも恐怖で。本当は2人目、3人目がほしいけど産まないという人の理由には、お金とか社会的な問題があるんですよね、だからまだ迷ってます。妊娠とか生まれるとかは大変、でも赤ちゃんの可愛さはすごいな、っていう。どうしようね?

 僕はどっちでもいいよ(笑)。

 あはは。そうそう、「どっちでもいい!」なんだよね。

 そうだね。

 この本の取材でも色んな人に話聞いて、産んでも産まなくてもどっちにも幸せな道があるよね、っていうのがわかったんです。だからできたらできたとき、できなかったらできなかったとき。一生懸命生きてたら楽しくなるんだろうな、っていう明るい気持ちですね。

赤ちゃん オォアゥッ!

 あ、お腹空いたのかな?

 そうだね。授乳してきます!

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ) 写真=花村謙太朗

 
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[プロフィール]
つるぎ・みきと ミュージシャン、主夫、漫画家。1979年新潟県生まれ。大学時代からベーシストとして活動。2008年にバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」に参加。その後バンド「神聖かまってちゃん」の担当マネジャーとして活躍。現在は主夫業と子育て、執筆業をこなす毎日。著書に『あの頃。男子かしまし物語』『高校生のブルース』。

いぬやま・かみこ 作家、タレント。1981年大阪府生まれ。2011年、ニート時代に出会った美人なのに恋愛が上手くいかない人を取材した『負け美女』でデビュー。雑誌連載やラジオ、テレビ出演などマルチに活躍中。著書に『言ってはいけないクソバイス』『マウンティング女子の世界 女は笑顔で殴りあう』(瀧波ユカリとの共著)など。