冴えないおっさん神様が男女の縁を結ぶ? 『鴨川ホルモー』作者 万城目学の最新作『パーマネント神喜劇』

文芸・カルチャー

2017/8/17

『パーマネント神喜劇』(万城目学/新潮社)

 「神様」と聞けば、人の形をしたこの世を統べる全知全能の存在をイメージする。しかし『パーマネント神喜劇』(万城目学/新潮社)に登場する神様は、頼りなく、ハプニング持ちで、どこか間が抜けていて、奇怪な服を着ている中年姿のおっさんだ。実在する人間ならば、間違いなく奇人変人扱いを受けているだろう。そんな姿のくせに1000年もの間、縁結びの務めをやってきたという。物語は、このおっさん神様の縁結びの対象、あるカップルのデートの場面から始まる。

 篠崎肇(しのざきはじめ)は、彼女の坂本みさきとフレンチのディナーを楽しんでいた。メインも食べ終わり、食後のデザートをつついていたとき、みさきは肇に言った。

 「私、肇に直してほしいところがあるんだ」

 さきほどまでの楽しそうな彼女が一転、急に語調が険しくなり、肇は「ついに来たか」と心の準備をした。というのも、休日もとれないほど仕事に追われていた肇は、なかなかみさきと会うことができていなかった。そこでなんとか時間を作って、8000円のフレンチフルコースを奮発したのだ。しかしそれでもみさきの不満は流せなかったらしい。みさきはこう続けた。

 「“まず、はじめに”って前置きする口癖を直してほしい」

 みさきは、肇が忙しくて全然会えない間に、2人の間に何の問題があるのか考えた。その結論が「まず、はじめに」という口癖だというのだ。予想外の回答にぽかんとしていた肇だったが、クソ真面目にも、というより女心を理解せず、「まず、はじめに」という口癖が持つ意味を説明し始めてしまう。それにうんざりしたみさきは、肇の話も聞かずに席を立ってしまった。本当は、みさきはその口癖に怒っていたのではない。2人は付き合って5年。肇の「石橋を叩いても渡らない」決断力のなさに怒っていたのだ。

 店を出て2人が帰り道を歩いていたとき、不思議なことが起こる。肇が横断歩道を渡り終えたそのとき、「キンッ」という硬質な音が聞こえた。その直後、目を開けていられないほどの強い光が肇の足元から一気にせり上がった。おそるおそる目を開けてみると、目の前には奇妙な中年のおっさんが立っていた。その中年は自分のことを「神」と名乗ったのだった。

 本作品の作者は『鴨川ホルモー』や『プリンセス・トヨトミ』などを生みだした万城目学氏。本作品もそれらを思い起こさせるユーモラスさと奇想天外さがたっぷりつまっている。また、この縁結びのおっさんには、神様とは思えない人間味があり、なんだか憎めない愛嬌を感じてしまう。全知全能の神では感じることのない、親しみと応援したくなる気持ちだ。

 本書に登場する人間たちも、どこか応援したくなる人柄を持っている。「石橋を叩いても渡らない」クソ真面目な肇は、悪いやつではないが、一緒にいるとイライラする性格。それでも肇なりにみさきを想う気持ちは伝わる。不器用という一言がものすごく似合う。別の物語で登場する当たり屋の男は、甲斐性のないクズ男。しかし「このままではいけない」という自己嫌悪やもどかしさも感じており、共感を覚えてしまう。「神喜劇」の名にふさわしい、人間味とユーモアにあふれている作品だ。

 さて、神様と出会った肇は、なんと口癖である「まず、はじめに」を直されてしまう。縁結びの神様のくせに、わざわざ人間の前に現れてやることは口癖の矯正……。果たして肇とみさきの恋の行方はどうなってしまうのだろうか。おっさん神様は縁結びの務めを果たすことはできるのだろうか。

文=いのうえゆきひろ