「夫の女装趣味が発覚」「声優の夢、限界感じる」…読売新聞の名物連載「人生案内」から見る、日本の“今”

暮らし

公開日:2017/8/27

 読売新聞の名物連載「人生案内」。このコーナーの回答者が現代日本人の姿を描いた『悩める日本人「人生案内」に見る現代社会の姿』が、2017年8月10日(木)に発売された。

 連載当初から「一般読者からの悩みに識者が誌上で応える」というスタイルを変えることなく、100年を超える歴史を築き上げてきた「人生案内」。100年以上同じ形式で継続されているため多くの社会学者の研究対象にもなっていて、「人生案内」を対象とした論文も多数存在する。

 著者の山田昌弘は、現代社会の深層を分析し「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」といった概念を生み出した気鋭の社会学者。2009年からは「人生案内」の回答者のひとりとして現在も活動中だ。

advertisement

 同書では、「父の死を夫がSNSに投稿」「交際相手が心変わり、苦しい」「70歳男性、年下の彼に未練」「性的少数者、就活どう臨む」「妻が不倫、謝罪されたが苦しい」「失業の30代息子、職探し2年」「声優の夢、限界感じる」など、現代日本人のリアルな悩みを紹介。

 例えば、「夫が女装していることに気づきショックを受けた。成人になった子どもも知っている。これから老後を一緒に過ごすのかと思うと不安だ」という質問には、「夫が誰かに迷惑をかけているわけではありませんが、あなたがどうしても受け入れられないのなら別々に生活するしかありません。多少なりとも我慢できるようなら、変な趣味を持った夫としてそっとしておくのが良策です」と答える。

 社会学者にとっては男性の女装趣味という性向はけして珍しいことではない。しかしこの投稿で驚かされるのが、奥さんからの相談であるという点、そして子どもまで知っているという点だ。そこから、夫自身はばれても構わないと思っていることが推測できる。つまり、本人は女装趣味であることを悩んでいるわけではない。以前ならこのようなことは誰にも言えない悩みとして本人から相談されるものだったのが、いわゆる「あたりまえ」というスタンダードが通用しなくなり、様々な価値観が存在する時代になったことがうかがえる。

 また、昨今盛り上がっているのが高齢者の恋愛相談。健康寿命の延び、未婚率や離婚率、配偶者との死別の増加が背景にあると考えられ、「不本意な結婚生活をおくった」という理由から、恋愛をやり直したいという欲求を持つ人がかなりの割合で存在する。

 逆に若者からは「恋愛に積極的になれない」という相談が増加中。恋人がほしいと思わない理由の1位が「恋愛が面倒くさい」という調査結果もあるほどで、男女ともに恋愛に全く縁がない若者が増えている。

 日本の社会は、既存モデルの人生を歩んでいる人に都合よくできている。しかし、「人生案内」から垣間見えるように価値観の多様化は着実に進んでいて、既存モデルからこぼれ落ちる人々も少なくない。しかし一方で、昔からある「世間体」という圧力がこのところますます強まり、様々なリスクを恐れて自主規制してしまう風潮も顕著になりつつある。「人生案内」から見えてくるのは、多彩な価値観と世間体のはざまで苦しんでいる人がたくさんいるという点。そこに映される「縮こまっていく日本社会の実像」を捉えてみてほしい。

山田昌弘(やまだ・まさひろ)
1957年東京生まれ。中央大学文学部教授。1981年東京大学文学部卒。1986年同大学院社会学研究科博士課程退学。専門は家族社会学。親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。『パラサイト・シングルの時代』、『希望格差社会』など、次々に話題書を執筆。2006年「格差社会」で流行語大賞トップ10受賞。その後、共著の『「婚活」時代』がベストセラーとなり、婚活ブームの火付け役ともなった。近著に『モテる構造』、『結婚クライシス』等がある。2009年から読売新聞の名物連載「人生案内」の回答者をつとめる。

※掲載内容は変更になる場合があります。