小説『ぴぷる』関係者リレーインタビュー/[第一回]原田まりる(作者)

文芸・カルチャー

2018/10/6

とりあえず、普通の恋愛のお話には絶対ならないです!(笑)

 コラムニスト、哲学ナビゲーターとして活動してきた原田まりるさん。初めての小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』で第5回京都本大賞を受賞し、『アラフォー社畜の美少女生活』で第3回カクヨムweb小説コンテスト「キャラ文芸部門」大賞を受賞するなど、文芸界からも熱い注目を集め始めている。哲学もガチで好きだけれど、アニメやライトノベルも大好き。そんな彼女のエッセンスが詰め込まれた最新作が、今号より連載スタートした『ぴぷる』だ。モチーフはずばり、AI。

「次は人間のコミュニケーションの問題をメインで書きたいなと思っていた頃に、東京大学で人工知能の研究をされている松尾豊先生と知り合う機会があったんです。これは運命だな、と。取材もしやすいぞ、と(笑)。資料を読むといろいろな研究者の方がAIの定義をしていたんですけれども、私の中で一番しっくりきたのが“AIとは、知的に振る舞える人工的なシステム”でした。“振る舞える”という言葉がザワザワするじゃないですか。お話のイメージがどんどん膨らんでいきました」

 舞台は近未来の京都。30代のサラリーマン・摘木健一が、「寂しさ」という感情から手を切り、日常に安定を取り入れるため、AIとの結婚を決意しブログで公表する。そのAIは、「性交渉機能搭載人型汎用AI No.13-S」。起動時の描写は、ラブコメのスイッチが入る瞬間の描写でもある。

<僕は彼女の対面に座り、彼女の両手の掌と自分の掌をぴったり合わせてみる。人型汎用AIは掌に認証システムが搭載されており、両手の掌を合わせることで起動する、と説明書に書いてあった。(中略)控えめな起動音のあとに、静かに彼女の目が開く。精巧に造られた綺麗な瞳と目があった瞬間、僕は本能的にドキっと反応してしまう>

 摘木が付けた名前は、ぴぷる。ところが彼女は、なぜか子供みたいに幼くて、なぜかきっぱり性交渉も拒否されて――。せつなくも笑える第一話だ。

「性交渉機能が付いているのに、それができないって状況があったら面白いなあと思ったんです。どうやってその状況になるかを考えていったら、主人公が間違えてAIを未成年に設定しちゃったために、条例に引っ掛かってできなくなってしまったのはどうかな、と。ついでに、子供っぽくてちょっとアホなAIになってしまうのは面白いぞ、と(笑)。でも、設定をし直せばいいって考え方もあるじゃないですか。そこはどうなんだろうって東大の松尾豊研究室のみなさんに取材でうかがった成果が、第二話以降で出てきますのでお楽しみに!」

 第二話以降は、No.13-Sを開発したベンチャー企業で働く26歳の人工知能研究者・深山楓、極端な遺伝子論者の医学博士・夙川泰成らも登場する予定。健一とぴぷるの奇妙な「結婚」生活は、周囲の人々の価値観をも揺さぶることになりそうだ。

「Aさんの視点からはBさんの行動は突飛に見えるけど、Bさんの視点から見ると自分の行動は理屈立っている。そういうギャップを、章ごとに視点を変えることで出せていけたらなとう発案からキャラクターを生み出しました」

 ラブコメのストーリーに漂う哲学の薫りはやはり、この作家ならではのものだ。

「AIと結婚できるっていうことは、自分に都合のいい快感を得られるっていうこと。無駄な感情の落ち込みをなくせると摘木は思っているんだけれども、“本当にそうかな?”って気がするんです。むしろAIと結婚する前にはなかった種類の感情を味わうことになるんじゃないかなって……。AIが認識し区分する世界の在り方と人間が認識している言語感覚の世界の違いもありますし。哲学の世界で“悲観主義は感情によるもので、楽観主義は意思によるもの”という言葉があるんです。意思と感情の対立、みたいなところに入っていくことなるんじゃないかなと思っています。キャラクターの感情を書くことも好きなんですけど、どうしてそういう感情に至ったか、という思考のプロセスを書くほうが好きなんですよ」

 連載開始と同時に、大規模なコラボレーションも実現した。キャラクターデザイン&各回の挿画を、『君の名は。』で知られる田中将賀が描き下ろし。小説とはまた違った日常を、小説家自身が会話劇のシナリオを書き下ろしたWEBドラマ「耳で楽しむ小説『ぴぷる』」では、人気声優の梶裕貴が摘木の声を担当する。

「テーマとしてはAIとか、ちょっと哲学っぽいことが書いてあるかもしれないんですけど、ギャグ多めでストレスなく読んでもらえるんじゃないかなと思います。笑ってもらえると嬉しいですね。とりあえず、普通の恋愛のお話には絶対ならないです!(笑)」

はらだ・まりる●1985年生まれ。京都府京都市出身。2014年10月に『私の体を鞭打つ言葉』を出版し、哲学ナビゲーターとして活動開始。16年9月、初小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』を刊行、第5回京都本大賞を受賞。18年1月、『アラフォー社畜の美少女生活』で第3回カクヨムWeb小説コンテスト「キャラ文芸部門」大賞を受賞。

取材・文:吉田大助

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