ドラマよりもドラマチック! 私の人生を変えたプロレスの奇跡――『新日学園 内藤哲也物語 1』刊行記念トークイベントレポート(後編)

文芸・カルチャー

公開日:2019/6/2


 ゴールデンウイーク最終日に下北沢B&Bで行われた『新日学園 内藤哲也物語』発売記念トークイベント。前編では、広く。さん、堀之内大介さん(BBB)の出会い、『新日学園 内藤哲也物語』の制作秘話などで盛り上がった。

 後編では、登壇者それぞれが、自分の人生とプロレスの関わりについて語った。参加者からも熱い告白が飛び出し、イベントは最高の雰囲気でエンディングを迎えた。

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“新・新闘魂三銃士”は、内藤・オカダ・飯伏だ!(堀之内)

 休憩をはさんで、さきほど言いかけた、内藤選手と飯伏選手の関係性について問われると「以前、棚橋さんが言っていた『いつの時代も三銃士』という説があるんですよ」と堀之内さん。

「僕もそれをずっと思っていて。“闘魂三銃士”というのは、同期の武藤(敬司)・蝶野(正洋)・橋本(真也)で組まれて、その後に”新闘魂三銃士”として棚橋・中邑(真輔)・柴田(勝頼)の3人が出てくるんです。じゃあ、この後の三銃士は誰か……棚橋弘至は、2年前にもう言っています。内藤・オカダ(カズチカ)・飯伏だと」。

 思わず「うわー!」と叫ぶ広く。さん。「オカダ・内藤でここまできたストーリーに、飯伏幸太はこれまでうまく絡ませることはできなかったんですよ。やはり新日本所属というよりはDDTや飯伏プロレス研究所の色が強かった。それが去年までです。そして今年……」と言うと、「急に来ましたよね! 特濃の状態で!」と飯伏選手が新日本所属となったことを踏まえ、興奮気味に話す。

 堀之内さんが、三銃士、新三銃士の時代から受け継がれてきた師弟関係における棚橋弘至の役割を語ると、会場から拍手が!

「なぜ今、棚橋弘至が欠場の中、新日本プロレスがここまで盛り上がれるかというと、揃ったからなんですよ、“新・新三銃士”が! 今、内藤さんがすごく生き生きとしているじゃないですか。あの表情が全てなんです」と堀之内さんが言うと、「いい表情してますよね……」と広く。さんもしみじみ。

それぞれに自分とプロレス、一対一の物語がある(広く。)

 プロレスに対する思いを訊かれると、堀之内さんはミュージシャンとしてのプロレスとの向き合い方を語り始める。

「自分が表舞台に立つ仕事をするようになってより思うことは、音楽とプロレスって似ているなと。プロレスが観られなくなった時代もあるし、音楽もCDが売れなくなった時代があった。それが今、どちらもネット配信が出てきたりして、観られ方、聴かれ方がだいぶ変わった。でも、大会やライブを大事にしていることは変わらない。悔しい時、前を向いてやろうと思っている時は、プロレスのことを考えます。内藤哲也の言葉にもあるように、ずっと『夢を追い続けて』いますし。どうにもならないことはあるし、どん底に行くこともある。でも続けたいっていう気持ちでなんとか音楽業界でやってきて……人生そのものをプロレスと照らし合わせているところはありますね。広く。さんのように、ほかの分野の第一線で活躍している方はどう思っているのか、ぜひ聞いてみたいです」(堀之内)

 バトンタッチされた広く。さんが語る。

「私は内藤選手に出会うまでは、10年くらい広く浅くプロレスを見ていて。マンガ家としてデビューしたものの、ボキッと心が折れる音が聞こえるくらいに挫折したんです。プロレスのマンガを描いていくんだっていう夢を棚上げにして、就職したり、別の道に逸れたりしていて。でもずっとどこかに、あれをやらないと死ねないなという気持ちがあったんですよね。そういう時に内藤選手に出会って、どうしても描けなかったプロレスのマンガが、内藤さんを主人公にした学園マンガという設定なら……!と思って描けるようになった。そこから今につながるという感じです。あの出会いのおかげで変えてもらったなと思っています。みんな自分の日常というものがあって、プロレスの世界には、常に全力でがんばっている人たちがいる。落ち込んだ時は、プロレスの世界から元気をもらって、また自分の世界に帰っていく……プロレスは、人生に並走してくれているんだと思います」と。

 司会の門倉さんも自らの経験を話す。

「プロレスのおかげで自分の人生を俯瞰で見られるようになった。失敗しても、大丈夫、何年後かに何が起こるかはまだわからない!と思えるので、激しく落ち込みすぎずに済むんです」

「この失敗が布石になっていずれ……と思いますよね。それぞれに、自分とプロレス、一対一の物語があるのだと思います」と、広く。さんが語った。

スターダストの内藤とロスインゴの内藤が融合して1つになった、と思いました(広く。)

 印象に残っている試合についても語られた。

 2004年5月に東京ドームで行われた大会「NEXESS」に、2人が別々に一人で参戦していたこと、今日もその大会で買った同じパンフレットを持参していることを語ると、会場からどよめきが起こる。

 2014年9月21日神戸ワールド記念ホール・棚橋vs柴田戦、2016年4月10日両国国技館・IWGPタイトル戦 内藤哲也vs.オカダカズチカ戦、2013年12月23日後楽園ホール・Road To TOKYO DOME FINAL 内藤・棚橋VSオカダ・中邑戦などについてそれぞれの思い出を交えつつディープなプロレス談議が交わされていく。

 堀之内さんが言う。

「昔から見ていた人にしか、この感覚はわからないのかといったら、そういうことでもないんですよね。ここも音楽と近いと思うんですけど、“浅い”ファンだとか、いつから入ったのかとか、関係ないんですよ。アルバムだったら『2枚目から入りました』『えー、1枚目聴いてないの?』とか言われるのは、僕らからすると本意ではない」。

「自分が何に心を動かされたかということだけでいいですよね。正しいとか間違ってるとかじゃない」と広く。さんもうなずく。

 ケガで休場中の柴田選手や高橋ヒロム選手が生き生き動く姿が見られるのも『新日学園~』を読む喜びだと門倉さんが言うと……。

「それも記録しておかなきゃいけないという使命感があって。この選手たちが輝いていた時間というのを、誰かが形にとどめておかないといけないんじゃないかと……勝手な思い込みですが……」と広く。さん。

「いやいや、一番いいことですよ、それ!」と堀之内さん。

 2012年1.4東京ドームの棚橋弘至vs.鈴木みのる戦については、堀之内さんが新日本とコラボした話題に。

「Tシャツも作ったし、棚橋選手とパンフレットで対談もしました。初めてここまで大きな絡み方ができた!という喜びがありましたね。僕たちのライブが、前日の1.3に武道館であって……それは自分にとってのイッテンヨンみたいなところがあったんです。ここまで自分が続けてこられて、今だったら仕事を通して、ちゃんと伝えられるものがあるんじゃないかと思いました」(堀之内)

 広く。さんがベストバウトとしてあげたのは、2017年G1決勝戦 ケニー・オメガvs.内藤戦だった。

「内藤選手が、封印していたスターダストプレスをここで出した……! スターダストの内藤とロスインゴの内藤が融合して1つになった、と思いました。かつての自分を取り込み、今の自分と併せて、完全なる内藤哲也になった、という感じがしましたね」

 堀之内さんもうなずく。

「まさに融合ですよね。“赤白の内藤哲也”が見えた。納得の日でした」。

続けてきたからこそ、広く。さんと、こうしてプロレスを好きな人たちの前で、話すことができた(堀之内)

 ここから、会場とのやりとりへ。

 好きなシーンや思いの丈などを参加者に訊くと、「棚橋さんがおいしそうにスイーツを食べるシーン」や「194ページがすごく好きで…よく描いてくれた!と感動しました」と、ピンポイントで思いを語る人も。またSANADA選手のファンが愛を語ったり、今後の展開のアイデアを語る人がいたりと盛り上がりを見せた。

●客席からあがった好きなシーン

▲内藤が取材を受けてるファミレスで、棚橋がおいしそうにスイーツを食べている。


▲オカダに挑戦表明した内藤は学校帰りに真田と出合う。「真田(SANADA)かっこいい!」


▲2011年10月10日のIWGP戦。ハイフライフロー2連発で3カウントとられた内藤に対して、棚橋は……。(『HIGHER AND HIGHER! “運命”の10月10日』より)

 

 そして、「あの……BBBの話をしたくて」と男性が手を挙げる。

 堀之内さんは「地方の会場で見たことがある顔がいるなあと思っていました」と嬉しそうに笑う。

「プロレスは2008年くらいから観ているんですが、BBBもずっと聴いてきました。堀之内さんもプロレスが好きだということを最近知って、自分の好きなものと、好きな人がリンクしているということに感動して。さっき堀之内さんが、音楽とプロレスが密接だとおっしゃっていましたが、俺の中ではBBBそのものがプロレスとリンクしているんです。今年出た『ポラリス』という曲がすごく好きなんですが、プロレスも、BBBも、“今”が一番おもしろくて、かっこいいんですよね。長く見続けると、あれが伏線だったんだなあとか、あの時の発言とかフレーズがいまの曲に生きてるんだなとか、さらに楽しい。『ポラリス』を聴いて、ああ、この曲はプロレスだなって……ちょっと感動しちゃったんです。プロレス界の紆余曲折とBBBさんの紆余曲折が全部リンクして自分の中で重なって……何を言いたいかわからなくなっちゃったんですけど」と言葉をつまらせる。

 堀之内さんは「いや、ちゃんと伝わってるよ」とやさしく言葉をかける。

 そして男性は「それで俺は、どっちも好きでよかったなって。今日は山形から来たんですけど、お話を聞いていると、その重なりがさらに濃くなって、いい会だなあと思って……マンガの発売記念の会ですけど、プロレス好きのみなさんにもBBBを聴いてほしいなと思いました」と語り切った。

「……泣きそうなんですけど……というか泣いてるんですけど!」と堀之内さんが言うと、会場から温かい拍手が送られた。

 観客の方々も含め、それぞれの胸に去来するものがあり、会場の温度がまたぐっと上がる。

「つながりますね」と広く。さん。

「これが長くやる醍醐味ですよね。こうやってリアルな声を聞けて……感動しています。ありがとうございます。広く。さんのことも、長年ファン同士として知っていましたが、お仕事で絡むことはなくて。でも続けていたからこそ、こういう場で、プロレスを好きな人たちの前で、話すことができた。とても幸せなことだなと思うし、もっともっと音楽活動を続けて、今を更新する形でやっていけたらいいと思います」と、堀之内さんも力強く語る。

「私も、この後の連載、がんばります!」と広く。さんも決意をにじませた。

 あっという間に2時間のトークは終了。

 サイン会でも、広く。さんはサインをしながら、一人一人とプロレス談議に花を咲かせていた。

レポート前編はこちら

 
登壇者プロフィール

広く。
ひろく●マンガ家&イラストレーター。鳥取県生まれ。2004年、マンガ家デビュー。2014年、イラストプロレス技図鑑『プ女子百景』を刊行して話題に。2018年6月よりWEBサイト『ダ・ヴィンチニュース』で『HIGHER AND HIGHER! 新日学園物語』の連載をスタート。新日本プロレススマホサイトの待ち受けイラストや『有田と週刊プロレスと』(Amazonプライム)オープニングのイラストも担当。

堀之内大介
ほりのうちだいすけ●ロックバンドBase Ball Bearのドラマー。1985年生まれ、東京都出身。2002年、Base Ball Bearを結成。2006年にメジャーデビュー。2019年1月に、自主レーベルDrum Gorilla Park Records(DGP RECORDS)から新作『ポラリス』をリリース。2019年1月『棚橋弘至 SOLO JAPAN TOUR 2019』に出演、棚橋選手のエアギターとセッション。9月15日からツアーがスタート。

門倉紫麻
かどくら・しま●ライター。1970年、神奈川県生まれ。Amazon.co.jpエディターを経て、2003年よりフリーライターに。マンガ、プロレスに関する記事をメインに活動。2015~2017年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員。2017~2018年度日本マンガ家協会賞選考委員。著書に『マンガ脳の鍛えかた』『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『2.5次元のトップランナーたち』など。『新日本プロレス SHO&YOHフォトブック「3K」』ではインタビューを担当。棚橋弘至選手主演映画『パパはわるものチャンピオン』パンフレットにコラムを寄稿。