ボールペンだけで描かれる古事記マンガ

マンガ

公開日:2012/9/7

 今年は古事記の完成から、ちょうど1300年。マンガ化された古事記にも改めて注目が集まる。これまで古事記マンガは、様々な作家が挑戦してきた。現代人にも分かりやすいよう工夫が凝らされ、「古典なんて難しい」と避けていた人への入門として貢献してきた。

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 そんな中、異色なのは、こうの史代の『ぼおるぺん古事記』だ。本作は、難しい原文(書き下し文)がそのまま掲載され、画はボールペンのみ(!)で描かれる。強弱のつけにくいボールペンの線は、古事記の淡々とした世界観とも合っているが、平淡なわけではない。愛らしい人物造形や原文の行間にひそむ心理描写が丁寧に画で描かれ、古事記になじみのない人も共感しやすい。

 例えば、スサノオが結婚の短歌を詠む場面があるが、やわらかな光の中、身を寄せ合うスサノオ夫婦が情感たっぷりに描かれる。今まで、こんなに切なくて心温まる古事記ってあっただろうか!? こうの史代でしか描けない線がなせる技であり、現代訳されたセリフではなく原文がついているからこそだ。原文の味わいをそのまま線で表現した本作は、まさに古事記マンガの新境地だ。また、これがネットで配信されたことや、1巻がすでに4刷に達したことからも、古事記マンガの新たな可能性を示唆している。今秋発売の続刊も待ち遠しい。

文=倉持佳代子
ダ・ヴィンチ10月号「出版ニュースクリップ」より)