「視える人」はいったい何を視ているの?

コミックエッセイ

公開日:2012/9/18

 今年は『古事記』が編纂されて1300年にあたる年、ということで『古事記』関連書籍の出版が相次ぎ、また『古事記』に書かれた神々たちが住まう神社がにぎわっているという。中でも『古事記』ハイライトシーンの「国譲り神話」で有名な神様、大国主の命が鎮座する出雲大社をはじめ、神話に秘められた神々の伝承が残る神社を訪ねる旅がブームだとか。その旅の目的は人それぞれだ。結婚や仕事など、ご利益を期待する人、いわゆるパワースポットを巡ってリフレッシュしたい人、何か気持ちのいい場所や史跡を訪ねたい人など。でもできれば不吉なものには近づきたくないと思いつつ、目に見えない“何か(=お化け)”に懐疑的な人におすすめなのが、伊藤三巳華のコミックエッセイ『視えるんです。』(メディアファクトリー)。奇妙なラップ音は当たり前、夜中2時になると必ず起こしに来る男など、幽霊が絶えず出現するお化け団地で育ち、幼いころから「視える」日常を送ってきた著者が、かわいらしい(けれど時々リアルすぎるほど怖い)イラストで綴ったコミックエッセイである。

 情報TV番組「王様のブランチ」でも紹介され、シリーズ累計はなんと19万部突破という人気ぶり。8月に発売されたばかりの『視えるんです。3』は、さらにパワーアップ。祇園精舎で聴いた桜の声と託された試練、その末にみた“地獄”。初めてもらったラブレター体験も心霊がらみ! 熱い想いがこもりすぎて生霊を生んだという体験談。神さまの足跡が現れる田舎で、“やばい”ばあちゃんが視ていたもの。そして亡くなった猫が歩く不思議な空の道、などなど……。

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 日常の怖い心霊エピソードから、史跡や神社を訪れる際に聞こえる“声”やパワーの話などがもりだくさん。また、スリランカ人の男性と結婚したばかりという著者が体験した、夫の故郷での不思議体験などいくつかのエピソードは、同時期に発売された『スピ☆散歩』(朝日新聞出版)ともリンクしているのであわせて楽しめる。

 これを読んでもまだ、疑い深い読者は「幽霊なんてホントにいるの?」と首をかしげるかもしれない。実は著者自身も、「いる」とははっきり言いきれないと、コミックの中でも何度も答えている。もしかしたら自分にしか見えていないのかもしれない、だけど確かに視えて、聞こえて、話している著者自身の日常が、当たり前のように描かれているのだ。

 心霊現象を信じている人もいない人も、著者が“視て”いるものを読んで一緒に体験してみると、もしかしたら“何か”が見えてくるかもしれない。