文芸批評家坂上秋成さんが選ぶ 「聖夜、純愛したくなる小説」ベスト5

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更新日:2013/8/2

12月24日はクリスマスイブ。イルミネーションで彩られた街を歩くカップルたちで賑わっているラコ。相手がいる人もいない人も、純粋で美しい愛について考えてみるにはいい機会。そこで、今回は文芸批評家の坂上秋成さんに、思わず“純愛”してみたくなるような小説をピックアップしてもらったラコ。



坂上秋成
1984年生。文芸批評家、ミニコミ誌『BLACK PAST』責任編集。2013年4月、河出書房新社より小説『惜日のアリス』(仮)を刊行予定。

1位
華やかで美しい世界を捨て、少女のため現実に立ち向かう
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フランスの作家ボリス・ヴィアンによって紡がれる儚くも美しい幻想世界。
歯みがきチューブを食べるために水道管から顔を出すウナギや、上手く演奏することでさまざまなカクテルを作りだしてくれるカクテル・ピアノといった非現実的な要素が、青年コランと少女クロエの愛のある華やかな生活を彩っている。最終的に幸福な日常は崩壊してしまうけれど、肺に睡蓮の花が咲く奇病にかかったクロエを救おうと、夢の世界の住人であることを止めて現実に立ち向かうコランの姿もまた美しい。

2位
エロスを超えて愛が成立する瞬間は訪れるのか?
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現代アメリカを代表する作家フィリップ・ロスによる恋愛小説。
数多くの女性とベッドを共にしてきた70歳の老人デイヴィッドは、不安や動揺を自分に与えた唯一の女性コンスエラのことを忘れられずにいる。しかし、美しい肉体を抱えていたはずのコンスエラは、久しぶりの再会において癌に侵され、死の匂いを強く感じさせる状態になっていた。デイヴィッドは、それでもコンスエラを救いに行こうとするが、それはエロスなしでも成立する愛を認めることであり、プレイボーイとして振る舞ってきた彼の人生を否定することになる。人と人が恋愛をする上での必要条件とは何なのかを突き付けてくるラストシーンは、私たち読者に対する問いかけでもある。

3位
今の自分と過去の自分とがせめぎ合う
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『とらドラ!』で一世を風靡した竹宮ゆゆこによる新作。
前作が高校生同士の恋愛ものだったのに対して、今作は大学を舞台としているため、ある意味で生々しさは増している。事故に遭ったことで記憶を喪失した少年である多田万里と、加賀香子との恋愛を中心とした小説だが、本作の最大の魅力は記憶を失う以前の万里が、幽霊となって今の万里を観察し続けているという点にある。シリーズはまだ完結していないが、今の万里が香子を選べば、過去の万里と、彼に思いを寄せている先輩の林田奈々が悲しむことになる。その構造にどう決着をつけるのかという点への興味は尽きない。

4位
それでも「あなた」と呼びかけ続ける
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2006年に『沖で待つ』で芥川賞を受賞した作家、絲山秋子による奇妙な恋愛小説。
小説は主人公である「私」が小田切孝に長年片思いを続けているという設定の元で進んでいくが、文体に二人称である「あなた」を用いている点が特徴的。読者には小田切は冷淡な男のようにも感じられるが、同時収録されている続編「小田切孝の言い分」を読むと、彼は彼で誠実に生きている男なのだと分かるし、「袋小路の男」における「私」の語りも自分に都合のいい綺麗な物語に過ぎなかったということが理解できる。最後まで恋人にならずセックスもない二人の関係だが、その曖昧さの中にも確かな愛が感じられる。

5位
妄想と現実のはざまから愛を叫ぶ
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『CROSS†CHANNEL』などのシナリオライターとして活躍し、『人類は衰退しました』 などの小説も発表している作家、田中ロミオによる渾身の青春小説。
かつて妄想世界にどっぷり浸っていた一郎と、今まさに自分を魔女とみなすことで狭量な世界から身を守っている良子の物語。いわゆる「中二病」との距離感をどうするべきかを描いた作品だが、良子に言葉を届けるため、もう一度妄想戦士のコスプレを一郎が纏う瞬間の感動は凄まじい。私たちもまた不自由な世界で生きているからこそ、一郎と良子が夢と現実の調和を図りながら成長する様に胸を打たれることになる。

坂上秋成さんからのコメント 「 聖夜に読みたい純愛小説ということで、カップルでサラッと読めるような作品を選ぼうかとも思ったんですが、結局は「聖夜だからこそガチで愛を考えようぜ!」という方向でのリストとなりました。恋人がいてもいなくても、やっぱりクリスマス・ソングを聴くとテンションが上がってくるこの季節。読者のみなさまに幸福な時間が訪れることを祈っています!」
他にもこんなテーマのランキングが知りたい!というのがあったら @bookrako までよろしくラコ!