戸田恵梨香×永野芽郁主演で映画化! 湊かなえ『母性』が描く“母と娘”そしてその愛

文芸・カルチャー

公開日:2022/7/2

母性
母性』(湊かなえ/新潮社)

 ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』で息の合ったバディとして活躍した戸田恵梨香さんと永野芽郁さん。ふたりが母娘として再共演することで注目を集めているのが、11月に公開される映画『母性』です。原作は湊かなえさんの同名小説『母性』(新潮社)。母と娘それぞれの立場から、美しかった家庭がある出来事をきっかけに崩壊していく過程が描かれます。

 本作は、「女子高生が自宅の中庭で倒れている」という事件が起きたところからスタート。「母性について」という新聞記事を読んで事件に興味をもった教師の視点、母の手記、娘の回想、3本のルートで物語は進行していきます。母親から愛されて育ち、生まれてきた娘にその愛を十分に注いでいると自負する“母”。彼女の手記から浮かび上がる、夫との出会いから母とともに娘を育てる毎日はまるで絵画のように美しく、あたたかく照らされています。そしてその日々は“娘”の回想の中でも、“ほぼ同じように”美しくあたたかいものとして記憶されています。しかしその生活はとあるきっかけで一変。以降“母”と“娘”の見えているものはどんどんずれていき、ほころびが広がっていきます。

 物語の冒頭から不穏な展開を予兆させ、ページをめくる手が止められない緊張感。すべてのからくりに気づいたときの、これまでの景色がガラッと変わるような衝撃とカタルシス。そんな湊さんらしさも満載で、ミステリーとしても最高の本作。しかし肝は、やはり“母性”というテーマにあります。

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「母性本能」という言葉があるように、かつては女性には本能的に子どもを育み守ろうとする性質、すなわち母性があるかのように言われる風潮がありました。とはいえ、医学的にはそういった存在は証明されておらず、通俗的なものとされています。。本作はそんな、曖昧ながらも崇高なものとされてきた“母性”とはなんなのか、さらには母が子どもに注ぐ愛とはどんなものなのかについて言及していきます。

 また親子の中でも、特に“母と娘”であるのも本作のポイントです。男性の育児参加が進んできたものの、平等とまではまだ言えない昨今。特に「子どものメンタル部分に深く関わる役割は母親」という家庭も多く、「母に愛されたい、認められたい」という思いを多くの子どもが持ち、その精神的なつながりが強くなっていくのは、今も昔も必然の流れであると言えます。中でも“母と娘”という関係は、同性同士であるからこそより深く、時には危うくなることもあるのかもしれません。そんな“母から娘”への思い、“娘から母”への思いが、女性の、特に深く暗い部分を描くことに長けた湊さんならではの描写で写し取られているからこそ、本作は最後まで強い緊張感を保ち続けているのです。“母”である、もしくはかつて“娘”であったことのある人ならば、彼女たちの異常さにぞくりとしつつも、共感せざるを得ない部分もきっとあるはず。

 筆者自身、発刊当時にいちど読んだことがあるのですが、その後子どもを産んで母となり今回改めて読んでみると、“母”に対しても“娘”に対しても、また違った感想をもちました。未読の人にはもちろん、一度読んだことのある方にも、映画公開前にぜひもう一度読んでみてほしい作品です。

文=原智香

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