青春×恋愛×謎解き×冒険! 本に挟まれた暗号に挑む高校生たちのみずみずしい青春ミステリー

文芸・カルチャー

更新日:2022/7/8

夏休みの空欄探し
夏休みの空欄探し』(似鳥鶏/ポプラ社)

 何の役に立つのか分からないようなことをがむしゃらに積み重ねていくのが青春なのではないだろうか。効率ばかりを求めていたら冒険は始まらない。損得考えず、ただ無我夢中に取り組んだ先にみえてくる世界がある。

 似鳥鶏氏による『夏休みの空欄探し』(ポプラ社)は、ある夏の日々を描き出す青春恋愛ミステリー。謎解きに挑む4人の男女を描いたこの物語は、まるで実際に謎解きイベントに参加した時のような高揚感を与えてくれる。そして、何よりも、この物語には、青春のきらめきとほろ苦さがギュッと詰め込まれている。高校生たちの等身大の悩みや恋心に切なさで胸が満たされていく物語だ。

 主人公は、会員が2名しかいないクイズ・パズル研究同好会の会長で高校2年生・ライこと、成田頼伸。ライのクラスには彼と同じ苗字で、野球部・サッカー部より人気であるダンス同好会に所属するキヨこと成田清春がいるから、クラスで「成田くん」といえば、キヨのこと。ライは「じゃない方」と呼ばれる、パッとしない存在だ。何の予定もない夏休みのある日、ライは、ファミリーレストランの隣の席で暗号を解こうとしている美人姉妹に出会う。苦戦する彼女たちを尻目に、一瞬で謎が解けたライは、答えを書き残して立ち去ろうとするも、すぐに彼女たちに捕まってしまった。彼女たちは、ライとは別の高校に通う1年生の立原七輝と、大学生の雨音。何でも、その暗号は古本屋で購入した本に挟まれていたもので、ある会社の創業者の遺産が隠された場所を示しているものらしい。「他にも暗号があるから、知恵を貸してほしい」という姉妹に協力することになったライは、その道中で偶然キヨに遭遇し、彼らは4人で謎解きの旅に出かけることに。ひとつの謎を解き、示された場所に行くと、また次の謎が出題される。すべての謎を解いた果て、彼らはどんな真実に辿り着くのだろうか。

advertisement

 元々、ライはクラスの中心人物であるキヨに対して苦手意識を持っていた。小さい頃から何でも知ることが好きだったライは、あらゆる雑学に詳しいのだが、ある時、キヨから「それ、何か役に立つの?」と言われたのだ。確かにライの知識は役には立たない。人気者で、運動神経もよく、誰が相手でも会話を盛り上げられるキヨを見ていると、友達が少なく、会話が苦手で、運動もできない自分に対して、「役に立たない知識」に特化した人間だというコンプレックスを感じずにはいられない。誰よりも謎解きの能力のあるライだが、4人で謎を解く旅の中でも、キヨに対して強い劣等感を抱いていた。

 だが、キヨもそれは同じだった。みんなでワイワイ賑やかに盛り上がる遊びしかしたことがなかったキヨにとって、黙々と謎解きに挑み、それを楽しんでいるライや七輝、雨音の気持ちは理解できなかった。夢中になれることが何ひとつなく、いつも効率重視で行動してしまう自分に不安を感じ、役に立たない知識だとしても、それに夢中になれるライたちのことを羨ましく思っていた。「このままでいいのだろうか」と互いに似た悩みを抱えていたライとキヨ。謎解きの旅を通じてふたりは次第にお互いを信頼し合っていく。

 そして、ライは七輝へ、キヨは雨音へ恋心を抱いていく。その真っ直ぐな思いには思わず胸がキュンとさせられる。だが、七輝をどんどん好きになっていくライに対して雨音は「本当の七輝を知ったら、あなたは絶対に驚く」と告げる。一体、七輝は何を隠しているというのか。すべての謎が明かされた時、思いがけない事実に胸が締め付けられる思いがする。

 甘酸っぱい恋心と、とびきりの謎。駆け抜けていく一夏の日々。この本は、まさに夏にぴったりの物語だ。読めば、あなたも自分の青春の時を思い出すに違いない。高校生たちと一緒に冒険している気分を味わえるこのみずみずしい青春恋愛ミステリーをぜひともあなたも体感してみてほしい。

文=アサトーミナミ

あわせて読みたい