焼肉のスペシャリストが明かす“焼肉史”も! 極上の焼き方を徹底解説した『教養としての「焼肉」大全』

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更新日:2022/9/3

教養としての「焼肉」大全
教養としての「焼肉」大全』(松浦達也/扶桑社)

 網の上で好きな部位を思う存分焼き、口いっぱいに頬張る幸せを噛みしめられるのが焼肉の醍醐味。このひと口の幸せを、もっと引き立てるコツはないのだろうか。焼肉好きな人の中には、そんなもどかしさを感じている人もいるはずだ。

 そうした人におすすめしたいのが、焼肉の歴史から味わい方までを完全網羅した『教養としての「焼肉」大全』(松浦達也/扶桑社)。

 著者は、さまざまなメディアで焼肉をよりおいしく食べられる焼き方を検証し、紹介してきた焼肉のスペシャリスト。本書では意外と知らない焼肉の歴史やいい肉・いい店の選び方、焼き方の極意、ビジネスシーンで焼肉を囲む時の所作・コミュニケーション術などを解説。語られる“焼肉学”に触れると、焼肉の見え方が変わる。

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最初に牛タンにレモンをかけた店は?

タン塩

 独特の食感を楽しめる牛タンは、今でこそ焼肉の定番メニューとなっているが、著者によれば、その歴史は決して古くはないのだそう。

 実は牛タンが焼肉店のメニューとして登場したのは、1970年代。発祥店とされているのは、有名焼肉店「叙々苑」と銀座にあった「清香園」(現在は閉店)なのだとか。この2店は、タン塩+レモンの発祥店でもあるという。

 まず叙々苑説だが、六本木に1号店を出店して間もない頃、食肉業者に「何か新しいメニューにできるものはないか」と相談したことから、タン塩がメニューに加えられたのだとか。

 レモンが添えられたのは、六本木のクラブホステスのわがままがきっかけだったというから面白い。そのホステスはタン塩を食べる際、そのまま食べるとやけどをするため、たれを持ってきてとマスターにリクエスト。

 しかし、タン塩用のたれはなかったため、マスターがその旨を伝えると、好物のレモンを搾ってたれ代わりにして食べると言い出したのだそう。

 そして、実食した結果、牛タンとレモンが合うことを発見。マスターに「これを、たれにしたら?」と提案し、タン塩+レモンという組み合わせが生まれたのだとか。

 なんともユニークなこの発祥経緯は、『叙々苑「焼肉革命」』(新井泰道/KADOKAWA)に記されているという。

 一方、清香園説はこの店のマダム・張貞子がスウェーデンの空港で見たタンの燻製からインスピレーションを得て、牛タンをメニュー化し、レモンとの組み合わせを提案したというもの。これは、2005年7月23日付の東京新聞に掲載されていたようだ。

叙々苑説、清香園説のいずれかのみが正しいとも限らない。食べ物の発祥や発展は往々にして不思議なほど同じようなタイミングで可視化される。

 そう語る著者の言葉に触れると、焼肉文化が、今後さらに発展していきそうな気がして胸がわくわくする。

 なお、本書には福沢諭吉や徳川慶喜などの偉人と肉食文化の意外な関係も分かりやすく解説されているので、そうした史実にも触れながら、焼肉の奥深さを噛みしめてみてほしい。

いい肉を仕入れている店の条件は?

 今日は奮発して、おいしい焼肉を食べよう。そう思う日は、いい店に足を運びたくなる。だが、全国各地に数多くの焼肉店がある中、本当においしい肉と出会える店を探すのはなかなか難しい。

 そんな時、参考にしたいのが、著者が語る「いい肉を仕入れている店の条件」。それはメニューに、「切り落とし肉」がある店なのだという。

 なぜなら、いい肉を仕入れている店は仕入れにプライドを持っており、「並」のためだけの肉を仕入れず、大きな塊肉で仕入れ、同じ個体から「特」「上」「並」を切り出すからだ。

 こうすると出るのが、半端な量や形の端材。いい店は選定にも厳しいため、「上」に満たないものを「切り落とし」とするので、メニューに「切り落とし」がある店は「特」や「上」の質が担保されているのだという。

 そんなアドバイスをくれる著者は本書内で、肉がより旨くなる焼き方の極意を部位ごとに解説してもいる。

 例えば、ハラミは厚みを踏まえて焼き方を変えるのがコツ。5mmくらいならば、強火で両面に焼き目をつけた後、皿に取って1分休ませ、強火ゾーンでもう一度、両面を香ばしく焼き付けるのがおすすめ。

 対して、1cm以上の厚みである場合は、両面に強い焼き目をつけ、弱火ゾーンで1分ほど返しながら温めた後、皿に取って2分休ませる。その後、中火で両面を焼き上げ、内側から強い弾力が出てきたら完成なのだとか。

 本書には、「ガスロースターのプレート&炭火の七輪の焼き台温度帯マップ」が付いているので、これを参考に強火ゾーンや弱火ゾーンを頭に入れ、最高の焼肉を完成させてみてほしい。

 焼肉をおいしく、楽しく、安全に味わうコツが満載の本書。手に取れば、さらに焼肉が好きになるはずだ。

文=古川諭香

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