BOOK OF THE YEAR 2022投票スタート!2021年小説部門を振り返る——あらゆる世代に響いた新しさと普遍性 注目を集めた、あの青春小説が首位に!
公開日:2022/9/9
『ダ・ヴィンチ』の年末恒例大特集「BOOK OF THE YEAR」。今年の投票がいよいよスタート! ぜひあなたの「今年、いちばん良かった本」を決めて投票してみてほしい。ここで改めて、2021年の「小説」部門にどんな本がランクインしたのか振り返ってみることにしよう。
1位『オルタネート』加藤シゲアキ
2位『正欲』朝井リョウ
3位『白鳥とコウモリ』東野圭吾
4位『スモールワールズ』一穂ミチ
5位『テスカトリポカ』佐藤 究
6位『リボルバー』原田マハ
7位『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』東野圭吾
8位『お探し物は図書室まで』青山美智子
9位『犬がいた季節』伊吹有喜
10位『追憶の烏』阿部智里
11位『臨床の砦』夏川草介
12位『エレジーは流れない』三浦しをん
13位『魂手形 三島屋変調百物語七之続』宮部みゆき
14位『ヒトコブラクダ層ぜっと』(上・下)万城目 学
15位『元彼の遺言状』新川帆立
16位『あきない世傳 金と銀(十)合流篇』髙田 郁
17位『映画ノベライズ 天外者』小松江里子
18位『羊は安らかに草を食み』宇佐美まこと
19位『クララとお日さま』カズオ・イシグロ:著 土屋政雄:訳
20位『硝子の塔の殺人』知念実希人
21位『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう
22位『遠巷説百物語』京極夏彦
23位『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃
24位『小説8050』林 真理子
25位『兇人邸の殺人』今村昌弘
26位『本好きの下克上~司書になるためには手段を選んでいられません~第5部 女神の化身Ⅴ』香月美夜
27位『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成
28位『累々』松井玲奈
29位『三体Ⅲ 死神永生』(上・下)劉 慈欣 :著 大森 望、光吉さくら、他:訳
30位『アンと愛情』坂木 司
31位『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼
32位『琥珀の夏』辻村深月
33位『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子
34位『コロナと潜水服』奥田英朗
35位『死にたがりの君に贈る物語』綾崎 隼
36位『きのうのオレンジ』藤岡陽子
37位『八月の銀の雪』伊予原 新
38位『黒牢城』米澤穂信
39位『オムニバス』誉田哲也
40位『雷神』道尾秀介
41位『魔道祖師』(全4巻)墨香銅臭:著 鄭穎馨:訳
42位『これは経費で落ちません!経理部の森若さん』(8巻)青木祐子
43位『リリアン』岸 政彦
44位『ワンダフル・ライフ』丸山正樹
45位『Phantom』羽田圭介
46位『本心』平野啓一郎
47位『春夏秋冬 代行者 春の舞』(上・下)暁 佳奈
48位『彼らは世界にはなればなれに立っている』太田 愛
49位『夜明けのすべて』瀬尾まいこ
50位『わたしの幸せな結婚』(5巻)顎木 あくみ
東日本大震災から10年を迎えた昨年は、その“時間”について思いを巡らせた人はきっと多かったのではないだろうか。
デビュー作『ピンクとグレー』以来、止まることなく書き続けた10年——。加藤シゲアキが『オルタネート』で堂々、初の首位に! 高校生限定のマッチングアプリというツールを装置にしつつ、青春の普遍を描き切った同作は直木賞、本屋大賞共にノミネート、吉川英治文学新人賞、高校生直木賞を受賞した。登場人物たちと同世代の読者はもちろん、「高校卒業から20年経た自分も物語の一員のように過ごせた。その日常が愛しい」(43歳・女)とあらゆる世代から票を集めた。
「コロナ禍でコミュニケーションの取り方、SNSとの向き合い方が変わりつつあるなか、それでも向き合うのは人と人、という普遍を教えられた」(38歳・女)など、その物語から“今”を見つめる声は、2位の朝井リョウ『正欲』にも通じている。「何が正しいのかわからなくなっている世の中で、自分が何を正としてそれに欲を注いでいくか、じっと考えたくなった」(23歳・男)といった声で埋め尽くされた同作は、作家生活10周年の記念作品。柴田錬三郎賞にも輝いた。
“被害者と加害者”という立場について考えが巡る、東野圭吾版“罪と罰”ともいえる3位『白鳥とコウモリ』も、長く続く自粛生活のなか、くすぶり続ける人々の思考に数多の問題を提起したようだ。
コロナ禍において2度目となったランキングは、寄せられたコメントが長さと熱を増していた。
ことさらに熱い言葉で綴られていたのは“作家との新たな出会い”。初の一般文芸作品で直木賞、山田風太郎賞候補にノミネートされた4位の一穂ミチ『スモールワールズ』はベスト3に迫る勢い。そして本屋大賞で2位をマークし、一躍注目を集めた青山美智子『お探し物は図書室まで』が8位と、ベスト10に新たな風を吹かせた。アンケートには、新たな“推し”と出会えたことで、読書の楽しみがさらに広がったという声が続々届いていた。
11位『臨床の砦』、18位『羊は安らかに草を食み』、24位『小説8050』をはじめ、リアルと対峙し、今を知る、生きるための思考の軸をつくる作品が多くランクインした一方、5位『テスカトリポカ』、6位『リボルバー』、12位『エレジーは流れない』、14位『ヒトコブラクダ層ぜっと』など、現実をすっきりと切り離し、無我の境地で楽しめる作品に今年は多くの票が集まった。そこには、こんな時代だからこそ物語の力を感じたい、内なる世界にも想像を飛び越えた外の世界にも、縦横無尽に旅することができるその力を存分に楽しみたい、という読者の想いが反映されているようだった。
文=河村道子
※この記事は『ダ・ヴィンチ』2022年1月号の転載です。