「どうか皆の前でほめないで下さい」今の若者たちは、本当に素直でいい子、まじめでいい子なのか?

暮らし

更新日:2022/9/15

先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち慣
先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(金間大介/東洋経済新報社)

「Z世代」がメディアでしばしば取り上げられるようになり、世間の認知を広げている。今の子どもや若者たちといえば、「自己肯定感が低い」「積極性がない」「素直である」などの特徴があるといわれているが、その根底には何があるのか。そして、実際の子どもや若者たちのどのような言動に表れていて、私たち大人はどういった対応を取るのが正解なのだろうか。

先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(金間大介/東洋経済新報社)の著者は、イノベーション論などの研究を進める一方、大学で教鞭をとり、リアルの大学生たちと接している。そんな著者から見ると、先述した若者たちの特徴「自己肯定感が低い」「積極性がない」「素直である」という認識は、まず間違っていないようだ。

 本書は今の若者たちを、とにかく「素直でいい子、まじめでいい子」とし、次のような“行動原則”があると挙げている。読者の皆さんの身近な子ども・若者にもいくつか当てはまるのではないだろうか。

advertisement

(本書から一部抜粋)
・周りと仲良くでき、協調性がある
・言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない
・質問しない
・ルールには従う
・一番嫌いな役割はリーダー
・競争が嫌い

 ここで、私たち大人はこういった今の若者たちがとる表面上の行動原則だけを知って、深部まで理解したつもりでいると、彼ら彼女らへの対応を誤りそうだ。どうやら今の若者たちが単純に「素直」で「まじめ」で「いい子」なのではなさそうなのだ。

 例えば、一部の大人は「自己肯定感が低い」のだったら、とにかく褒めようと考えるかもしれない。「積極性がない」のだったら、目が合った生徒・学生に当てて答えさせるかもしれない。

 しかし、本書によると、こういった対応を取った大人は、生徒・学生に一気に嫌われる。

 今の若者たちの多くは、先述のとおり「自己肯定感が低い」と思い込んでおり、その心理状態のまま人前で褒められることはそのまま自分への「圧」になるのだという。また、私たち大人と違って、横並び意識が強く、自分だけが“奪われる”に留まらず“分け与えられること”への違和感までもが強い若者たちは、人前で褒め続けられることは負の要素でしかないため、ひたすら嫌がるそうだ。ただし、若者にも承認欲求はきちんとあるため、人前ではないところで褒められることは好意的に受け止めるらしい。

 同様の理由で、目が合った生徒・学生に当てて答えさせるのもNGだ。本書は、「目をつけられる」の意味が、大人世代と、今の若者たちとの間で変化したことを挙げている。私たち大人にとって、「目をつけられる」とは「悪いことをしたとき」に特別な関心の対象になる、というニュアンスだが、今の若者たちにとっては「良いことをしたとき」に「目をつけられる」が当てはまる。

 例えば、若者たちはこう考えるという。…講義で先生の問いに反応したから“目をつけられた”かもしれない…これからは2回に1回はすぐに答えないで、考えるふりだけして時間をかせごう…と。

 本書を読めば、今の若者たちが総じて「素直でいい子、まじめでいい子」に見えるのは、横並びから外れるのを極端に恐れるから、ということがわかる。大人から悪く見えることだけでなく、良く見えることで横並びから外れることも恐れるため、自分を殺してキャラクターを演じて周囲と協調し、言われたことはやり、ルールには従う。ただし、本心は、推して知るべし。

 今の子どもや若者たちと心から通じ合うためのヒントを、本書で探ってみてほしい。

文=ルートつつみ (@root223

あわせて読みたい