「女性の幸せは、素敵な男性に選ばれて結婚すること」と信じられていた18世紀、数学を愛し夢中になった女性ソフィー・ジェルマンの物語

マンガ

更新日:2022/9/16

天球のハルモニア
天球のハルモニア』(光城ノマメ:原作、しまな央:漫画/講談社)

 きっと夢中になれる何かとの出会いは、人の一生を変えてしまうほど大きな出来事で、とても素敵なことなのだろう。そう感じさせてくれたのが、漫画『天球のハルモニア』(光城ノマメ:原作、しまな央:漫画/講談社)だ。本作には18世紀のフランスで、ある学問の道に憧れを抱いたひとりの女性の一生が描かれている。

 物語の主人公はソフィー・ジェルマン。父の書斎にある本を読み漁るうちに、“数学”の魅力に惹かれていった12歳の女の子である。彼女を夢中にさせるのは理工学専門の学術書や、「雪の結晶はなぜ六角形なのか?」といった、数学で解明できそうな疑問が浮かんだ瞬間だ。多くの12歳は、おそらく友達と遊ぶことに夢中になりそうなものだが……。

 現代であれば、きっと彼女の変わった一面も個性として捉えられるだろう。しかし、本作の舞台は18世紀のフランス。まだ「女性は結婚して家庭に入ることが幸せ。学問を究めるなど意味がない」と信じられていた。ソフィーの父親もその思想の持ち主で、何とか彼女を数学の道から引き離そうとする。

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 そんな彼女は、ある日ひとつの噂を耳にする。パリに世界で初めての理工学専門の国立学校が開校されるというのだ。理工学の分野はまさにソフィーがいま夢中になっている数学をもとにした学問。それだけに胸を躍らせる彼女だったが、そこにもまた「女人禁制」という18世紀の既存の価値観が立ちはだかってしまう。ソフィーはどうやってこの窮地を乗り越えようとするのか……。

 もちろん作中にはフィクションの部分もある。彼女に降りかかる困難や既存の価値観・制度による苦悩は、その時代に起こったであろう出来事をベースに描かれているのだろう。ただ、ソフィー・ジェルマンは実在する数学者であり、彼女が厳しい時代でも数学者になる夢を諦めず、数学に夢中になり続けたということは確かだ。

 また、エッフェル塔の胴回りには建築に携わった数々の偉人の名前が刻まれているが、そこに彼女の名前はないという。これも当時のフランスの既存の価値観によるものなのかは不明だが、パリにエッフェル塔が建ち、さらに世界中に高層ビルや長い橋が次々に建造され、高層建築ブームを支えた重要な理論が構築できたのは、ソフィーの研究の賜物だと語られている。この作品を機に、彼女について詳しく知りたくなる人もいるのではないだろうか。

 また本作は、数学が苦手な人に「面白いかも」と思わせてくれる点も魅力の1つだ。過去にセンター試験で数ⅠA、数ⅡB合わせて“18点”をたたき出したことがある僕も、本書を読み進めるうちに、数学の奥深さやその中にある面白さに惹かれていった。数学の漫画を苦手に感じている人にこそおすすめの1冊だ。

 歴史的な偉人の軌跡と、夢中になれることの素晴らしさが知れる本作。ぜひ一度手にして読んでいただきたい。

文=トヤカン

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