世界一周の目的は「結婚」すること。ネガティブ×ポジティブな同性カップルは、旅を通じてどう変化していくのか?

マンガ

公開日:2022/10/8

僕らの地球の歩き方
僕らの地球の歩き方』(ソライモネ/マッグガーデン)

 人は他者との出会いによって、変化していく生き物だ。自分にはない視点、価値観、考え方の片鱗に触れることで、内面にまるで化学反応のような変化が生じる。それは“影響される”と言い換えることができるかもしれない。もちろん、なかには“悪い影響”もあるけれど、清濁併せ呑みながら変化し続けるのが人間なのだろう。

僕らの地球の歩き方』(ソライモネ/マッグガーデン)は“旅”を通じて、ふたりの青年が少しずつ変わっていくさまを描いたマンガだ。訪れる場所には必ず新しい出会いが待ち受けており、その構成はさながらロードムービーのようでもある。そして、作中で描かれる“変化”が、読者であるぼくらの価値観をも揺さぶるのだ。

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 主人公となるのは几帳面で心配性な〈朝日〉と、自由奔放であっけらかんとした〈みつき〉。お互い初めての海外旅行、しかも世界一周の旅に出発するところから、物語はスタートする。

 初めての海外旅行で世界一周だなんて、なにか相当な目的があるのではないか? 読者の疑問には早々に答えが出される。ふたりの目的。それは「結婚すること」だ。朝日とみつきは男性同士のカップルであり、世界を回り終えた暁には結婚を約束している。

 しかし朝日は、ふとした瞬間に浮かない表情を見せる。それは結婚に向かって突き進んでいる人のそれとは思えないもの。そう、朝日はネガティブな性格の持ち主で、みつきに愛されていることを自覚しつつも、どこか不安を抱えているのだ。でも、そんな朝日を変えるのが、旅先で出会った人たちなのである。

 たとえばタイで出会ったレイラさん。もともと「レイジ」だったという彼女は、恋人同士であることを隠そうとする朝日に対し、こんな言葉を投げかける。

あなたたちはただの恋人同士なんだから
堂々としてればいいのよ

僕らの地球の歩き方

僕らの地球の歩き方

 堂々としていればいい――。レイラさんの言葉は実に何気ないものだ。しかし、現実世界には「堂々としていること」が難しい人たちがいる。悪いことをしているわけではないのに、朝日のように自分を隠そうとする人たちがいる。レイラさんの言葉には、そんな風潮を吹き飛ばすようなパワーが宿っている。

 また、フィンランドでオーロラを目撃したふたりは、「君らは幸運で最高のカップルだ!!」と、オーロラ観測をしているティモさんという男性に称賛を受ける。

僕らの地球の歩き方

 このように公に「カップルだ」と認められる経験が少なかったであろう朝日にとって、この言葉はどれだけうれしいものだっただろうか。ふたりに偏見を向けず、ありのままを受け止めてくれる人たちとの出会いによって、ネガティブだった朝日はちょっとずつ顔を上げられるようになっていく。

 また、物語が進むにつれて、朝日のみならずみつきが抱える思いも明らかになっていく。とにかくポジティブで悩みなんてなさそうなみつきもまた、その胸中には複雑なものが宿っているのだ。

 作中で朝日とみつきが出会う、異国の人たち。彼らはそれぞれの国のカルチャーを下敷きにして生きており、ゆえに日本で育った朝日やみつき、そしてぼくら読者とは異なる視野を持っている。その出会いがふたりに変化をもたらすように、気がつけば読者もさまざまな気づきを得ることだろう。旅の終わりに彼らがどうなっているのか、無事に目的は果たせるのか。それを確かめるためにも、まずは第1巻から手に取ってもらいたい作品だ。

文=五十嵐 大

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