近代以前からプーチンのウクライナ侵攻まで!人間の悪と正義がせめぎあう「戦争のデザイン」の歴史

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公開日:2022/11/18

戦争とデザイン
戦争とデザイン』(松田行正/左右社)

 ロシアのウクライナ侵攻(プーチンの戦争)では、双方の国が旧ソビエト時代の兵器を使用していることから、戦争当初からロシアでは兵器などに識別記号の「Z」や「V」を記した。このシンボルは後にロシア側ではウクライナへの侵略のシンボルとなり、ウクライナ側にとっては侵略者、破壊者のシンボルと映った。

戦争とデザイン』(松田行正/左右社)は『RED ヒトラーのデザイン』や『HATE!真実の敵は憎悪である』(ともに左右社刊)、『独裁者のデザイン』(平凡社)などに続く、グラフィック・デザイナーである著者によるデザインから歴史の負をあぶりだす一冊である。

 プーチンの戦争はストーリーを作った方が有利となる「ナラティブ戦争」と呼ばれ、SNSなども駆使し戦争の正統性を訴え、それらのプロパガンダが飛び交う情報戦が交わされている。そうした戦争のストーリー構築に大きく関わっているのがデザインであるという。

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 本書は過去の戦争から現在進行形の戦争まで、4つの章によりデザインから戦争の「企み」を明らかにしていく。

 第一章「戦争と色」によると、古来より目立つ「赤色」は、血の色であり、革命で流された民衆の血であり、労働者の血となり、やがて共産主義の「赤」となったという。この赤はナチスドイツでは民族の血の色となり国旗の色となりやがて恐怖のシンボルとなっていった。

 第二章「戦争としるし」では、ナチスドイツの鍵十字(ハーケンクロイツ)や、ユダヤ人の商店などに落書きされたダビデ星が迫害のシンボルとなるなど、ナチスの負のデザインの例は枚挙にいとまがないことが記されている。

 第三章「戦争とことば」では、プーチンやロシア軍幹部などが敵であるウクライナを「ハエ」や「汚物」「モグラ」といった存在にたとえたことが記されている。これらのヘイト表現は戦争での残虐行為へのハードルを低くさせる常套句であり、かつて太平洋戦争でもアメリカ軍は日本軍兵士を「サル」「ネズミ」と呼び、日本軍もまた敵国を蔑称で呼んだ。“ことば”は容易に憎悪を作り上げていくのである。

 そして第四章「戦争とデザイン」に記される子どもの「デザイン」がおぞましい。ナチスドイツには10歳から18歳までの子どもたちの団体「ヒトラー・ユーゲント」があった。ナチスが理想とする金髪碧眼の“ナチス的人間”を作ろうとして、金髪碧眼の親衛隊員に子作りを奨励し、占領地からも金髪碧眼の子どもを誘拐して育てようとしたという。

 クメールルージュ支配下のカンボジアでは大人ではなく扱いやすい子どもを洗脳し、拷問と虐殺に加担させた。知識階級や医療知識のあるものを皆殺しにしたために、医療の穴を埋めたのは子どもだったが、もちろん医療知識のない子どもによる治療は死を意味していたという。

 戦争当事者の立場から訴える正義や主張が、デザインによって巧みに人々の思考に浸透してた事実を本書は教えてくれる。たとえそれが真実ではなくとも、戦争はデザインによってストーリーをまとい続けるのである。そして戦争だけでなく憎悪を人々の心から容易に表出させるのもまたデザインである。戦争は兵器による殺し合いだけでなく、デザインによっても人々を傷つけ、恐怖を植えつけてきたのである。

文=すずきたけし