障がいのある子どもと親へ向けた「親亡きあと」の対策本――“いつか”や“いざ”に備えて

出産・子育て

公開日:2022/10/22

障がいのある子とその親のための「親亡きあと」対策
障がいのある子とその親のための「親亡きあと」対策』(鹿野佐代子/翔泳社)

 子どもの将来が心配…親なら誰でも思い当たる感情だが、障がいのあるお子さんをお持ちの親御さんなら、その思いはなおのことかもしれない。特に親が高齢になるにつれ、さまざまな不安がどうしても増してしまうのではないだろうか。そんなときはどうしたらいいのだろう? このほど出版された『障がいのある子とその親のための「親亡きあと」対策』(鹿野佐代子/翔泳社)は、そんな不安を少し軽くしてくれるかもしれない一冊だ。

 著書の鹿野さんは30年以上、入所施設や通勤寮、グループホーム等の現場で支援に携わり、現在はFP(ファイナンシャル・プランナー)として、成人した障がい者の暮らしや「親亡きあと」の相談業務に従事している。これまでにも「親亡きあと」をテーマにした書籍は出版されているが、それらの多くは「障がいのある子を育てる親」が書いたもので、どうしてもその人の体験に準拠してしまいがちな面があった。本書は現場を熟知し、さまざまなケースに関わってきた「支援者の視点」で書かれているだけに、より多様で客観的なノウハウが紹介されているのが大きなポイントだ。

 実は鹿野さんがお金のプロであるFPの資格を取ったのは、支援の現場で「お金」に関する相談やトラブルが毎日のようにあったからだという。現在も親御さんからよく質問されるのは「子どもが将来も安心して暮らすためには、いくら残しておけばいいか?」であり、やはり「お金」に関することは支援の現場で大きな関心事となっているようだ。そのため本書では「50歳になった子を想像してみよう」を出発点に、多様なケースでかかるお金を想定した上で、「障がい者を支えるさまざまな制度」や「子どもの将来の暮らし方」を見通して備えを考えることを提案していく。

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 気をつけたいのは、せっかくお金を残しても、お子さん自身がちゃんと使えるようにしておかなければ無駄になってしまうかもしれないことだ。本書では、親や施設などの第三者がお金を管理する場合の注意点なども具体的にアドバイスされている。また、より本人が豊かに生きていくためには、自分でお金を使えるようになっておいたほうがいいし、管理までできたらなおのこと。そのためには「お金」を扱う基本的な方法(ATMでおろせるようになる、出納を自分で管理するなど)を教えておくなど対策はいろいろ。本書にはお金の扱い方を教えるトレーニング方法もフォローされているので参考になるだろう。

 あまり考えたくないが、いざ親自身に「もしも」のことがあったときにどうしたらいいのかも大切だ。葬儀のことや相続のことなどなど、人が亡くなった時のあれこれはどの家庭でも大変なこと。本書では障がいのあるお子さんになるべく負担にならないように、さまざまなノウハウが紹介されているのも心強い。また見過ごされがちな、障がいのある子の「きょうだい」の視点にも踏み込んでいるので、もしかすると視野が広がって安心する方もいるのではないだろうか。

 親亡きあとの対策は「シンプルであるほどよい」と著者。あれもこれも考えるのは大変なことだし、なによりそれは「子の人生とともに、親御さん自身の人生も大切にしてほしい」からだという。本書で「これならできる」という対策がひとつでも見つかり、一歩前に進めたらなによりだ。不安が少しでも解消されることを祈りたい。

文=荒井理恵

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