選ぶのは、身近な愛か、それとも――。大人の恋愛の苦悩を描く、新感覚ラブストーリー『雨降り晴れて花ひかる』

マンガ

公開日:2022/11/14

雨降り晴れて花ひかる
雨降り晴れて花ひかる』(大沢やよい/KADOKAWA)

 恋愛というのは、人の心を大きく揺さぶり、時として非常に厄介な状況を引き起こす。頭で理解していても、心がそれに従ってくれるとは限らないからだ。『雨降り晴れて花ひかる』(大沢やよい/KADOKAWA)は、そんな「愛する心」に振り回される、大人の新感覚ラブストーリー。

 本作品の主人公は、四国の田舎でうどん屋のアルバイトをしながら平穏な日々を送っている光。光は優しい旦那・晴天(はるたか)、飼い犬・さおしかとともに暮らしている。平凡だが、一生を誓い合った晴天との生活にそれなりに満足していた。しかしある日、友人の美波から、結婚して街を離れていた“ある人物”が離婚し戻ってくるという噂を聞かされる。その人物は、光が幼い頃からずっと思い続けている女性・野々瀬花だった。

雨降り晴れて花ひかる

 光と再会した花が最初に発した言葉は「誰やっけ?」。しかし光はそんなことはお構いなし。自分のことをようやく思い出した花との時間を、心の底から満喫する。ずっとずっと恋焦がれ、それでも手の届かなかった花が、今自分の隣で笑っている。光にとっては、それがたまらないほどに幸せなことだったのだ。

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雨降り晴れて花ひかる

 光と花はそのまま海へと向かい、写真を撮ったりお喋りしたりと2人だけの時間を過ごしていく。そしてその後、花は光の結婚指輪を奪って海に投げたふりをし、散々探させたのち、自ら花の指に指輪をはめる。

雨降り晴れて花ひかる

 このシーンまでの花は、自由奔放であまり人に執着しなさそうな雰囲気の女性だった。しかしこの行為と表情からは、光に “自分以外の誰か”ができたことへの心のトゲを強く感じる。それにしても、数年ぶりに会った相手にこんなことをする花も花だが、これだけのことをされて一切怒らない光にも驚かされる。恋は盲目とはこのことか……。

 その後も光は、花の自由――というよりもはや自分勝手な行動に振り回されていく。そしてそんな光を見て、彼女のことを心から心配し、静かな怒りの感情すら覚える晴天。でも、それを光に伝えることはできない。彼は彼で、光に心底惚れてしまっているからだ。結婚すれば手に入ると思っていた光は、いつまでもふわふわと晴天の手をすり抜けていく。

雨降り晴れて花ひかる

 3話ラストでは、花と晴天が接触する場面も描かれる。

 花はそこで、晴天に“あること”をお願いする。一般的な感覚で見れば、これは何らかの“トゲ”を持った花が晴天にちょっかいを出そうとしている構図に見える。しかし恐らく、この物語においてはそんな単純な話ではないのだろう。花の意図、そしてそれを呆然とした様子で見つめる光の心境が非常に気になる。

雨降り晴れて花ひかる

 光は晴天のことをちゃんと大切に思っているし、晴天の優しさを愛しく感じているのも事実だ。第4話では、そんな自分の不安定さに、またどっちつかずの感情に罪悪感を覚え、眠れぬ夜を送る…。自分勝手にふるまってしまった自分に対し、懐の深さを見せる晴天の思いやりに心からの安心を覚える光が描かれる。「誰かの特別な人」になるという幸せを噛みしめる、印象的なシーンになっている。

 感情で読んでみると、「こんなことアリなの!?」と時折憤りすら感じる場面も登場する。しかし現実を見てみると、正義が勝つことばかりではないし、白黒つけられないこともいくらでも発生する。本作は、そんな良くも悪くも生々しいリアルな人間らしさ、大人の恋愛事情をありありと描いていると感じた。

 永遠の愛を誓った晴天と、ずっと恋い焦がれ密かに思い続けてきた花。光はこれから、いったいどこへ向かっていくのだろうか。花の様々な行動の意図、花と晴天の関係性も併せてまったく先が読めず、ただひたすらに続きが気になる……。『雨降り晴れて花ひかる』というタイトルの意図にも注目し、最後まで見守っていきたい。

文=月乃雫

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