連続する凄惨な撲殺事件を追う姫川玲子。疾走感抜群のシリーズ5作目

小説・エッセイ

公開日:2012/12/11

ブルーマーダー

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 光文社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:誉田哲也 価格:1,050円

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『ストロベリーナイト』、『ソウルケイジ』、短編集『シンメトリー』、『インビジブルレイン』、と続いてきたベストセラーシリーズ姫川ものの第5弾である。

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ミステリーではあるが、名探偵の登場する本格推理ではなく、ガチガチの警察小説。そのガチガチのところがウケている秘密でもあろう。

警視庁捜査一課の姫川玲子は、男以上のタフな精神力を持ち、卓抜した観察力と行動力を備えた女性警部補。それだけにまわりと衝突することも多いのだが、時には独走するような無茶をおかしてまで、立ちはだかる難事件を解決してゆく。

警察内のゆがんだ力関係や、政治的動向が克明にリアルにつづられているのも魅力のひとつ。もちろん、そんな軋轢に苦しみながらも、不屈の姿勢で活躍する姫川のありようも爽快なんである。

物語は複数の視点から書き進められていく。

雑居ビルの空き部屋で発見された死体は、暴力団組長の死体だった。奇妙な撲殺のされ方からは凶器の推定も困難だった。姫川は執拗な聞き込みを開始する。

マル暴の下川は、かつて情報収集の目的で暴力団へ送り込んでいたSの行方を追っていた。そのとば口が開けそうになるのだったが…

下町の小さな鉄工所を経営する「おっさん」はシャブ中毒に陥り闇金からの借金がたまって、過酷な取り立てに自殺も考える日々。そこへ謎の男「マサ」があらわれ、凄惨な殺人のただ中に巻き込まれる。

一方、護送中の車両から逃走した殺人犯を追うエピソードもからみ、暴力団組長をねらった連続殺人の物語は疾走する。

「マサ」という人物の動機の見えない殺人も謎めいて読み手を惹きつけるのだが、登場人物ひとりひとりに強く立てられたキャラクターが、かみ合ったりはぐれたり軋んだり、その音の総和が起こすハーモニーが全編を引き立てていると思う。

スイスイ読めるので、シリーズ一気読みも不可能ではないのである。


序章で理不尽に苛まれる青年が描かれる。彼はやがて物語に大きくからまってゆく