個性豊かな刑事チームが“境界線上の事件”に立ち向かう――堂場瞬一「ボーダーズ」最新刊!

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/7

夢の終幕 ボーダーズ 2
夢の終幕 ボーダーズ 2』(堂場瞬一/集英社)

 元新聞記者ならではの「速筆」で次々と話題作を送り出し、常にファンを楽しませてくれる作家・堂場瞬一さん。2022年12月20日にも、文庫書き下ろしの新作『夢の終幕 ボーダーズ 2』(集英社)が発売されたばかりなので、すでに夢中になっている方もいるかもしれない。本作は、昨年末に発表された『ボーダーズ』のシリーズ2作目となる。堂場さんがこれまでに描いてきた警察小説は「鳴沢了シリーズ」のような一匹狼の刑事ものや、「追跡捜査係シリーズ」のようなバディものが多かったが、今回の「ボーダーズシリーズ」は作家肝いりの初の「チームもの」。期待できないわけがない!

 物語の舞台となるのは、5年前に警視庁に設置されたという設定の架空の部署・SCU(特殊事件対策班)だ。社会や事件が複雑化する中、従来の警察の縦割り組織では捜査が上手くいかないことが増えてきたために設立され、一つの部署では対応しきれない「境界線上の事件」を扱うことになっている。メンバーは公安出身で謎に包まれたキャップ・結城、「人間凶器」とも称される剛健すぎる綿谷、捜査一課出身で「目」のいい童顔の八神、指揮能力に長け初の女性部長候補と目される由宇、そして交通捜査課出身で運転とコンピュータに強い最上と、出身部署も個性もバラバラな5名の刑事たち。この5名の凸凹コンビネーションが物語をぐいぐいひっぱり、新たな興奮を届けてくれるのだ。

 1作目は東京新橋で発生した銀行立て籠り事件からはじまる。残念ながら被害者が出てしまったが、なんとその被害者は40年前に機動隊員殺しで手配され、公安から追われていた藤岡という男だった。キャップからの指示で八神は捜査一課のヤマである一連の捜査に食い込むことになるが、実は八神には「自分は捜査一課からSCUに左遷された」との意識があってなかなか前向きになりきれない。それでも事件は少しずつ明らかになり、犯人と被害者の枠を超え、公安をも巻き込む巨大な「闇」を映し出すことに――。

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 続く最新刊の2作目は人気バンドの失踪事件がキーとなる。秋田でのライブからの戻り途中、八王子インターで高速を降りた後に忽然と姿を決してしまった彼らを追って、秘密裏にSCUはその捜査を担うことになる。由宇の指示のもと、地元警察が中心となって山道の捜索に、SCUのメンバーは主に事務所への聞き取り捜査を続けていく。なかなか進展が見られず焦りばかりが募る中、ツアーに同行していたマネージャーの遺体を山中で発見。さらにはツアーバスの運転手だった男が助けを求めて保護され――。

 それぞれ1作目は八神が、2作目は最上が主役だ。SCUは組織として歴史が浅く、警察という組織からすると若干浮いた存在であるために、物語では事件解決のスリリングな面白さと共に、主役となるメンバーがその微妙なポジションと折り合いをつけていく姿を描いていく。つまり型破りな組織を描くことで、逆に「警察」という組織に生きるがゆえの人間臭さが際立つわけで、そのバランスもなんとも絶妙で興味深い。このシリーズでは作品ごとに中心人物が変わっていく予定とのことで、これから残り3名のドラマも繰り広げられることになるのだろう。事件解決の醍醐味はもちろんのこと、魅力的なキャラクターの行方に目が離せなくなりそうだ。

文=荒井理恵

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