先天性心疾患を持ち、脾臓がない状態で生まれた20代女性が「普通」ではない自分を好きになれるまで

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/18

キミがいるから私は HEART HANDI LIVE
キミがいるから私は HEART HANDI LIVE』(近藤姫花/幻冬舎)

 世間一般が言う「普通」から外れていると感じると、生き方に悩み、自分を責めてしまうことがある。筆者自身、そうだった。産まれ持った先天性心疾患の受け止め方や健常者のような生活を送ることができないことに悩み、自己否定し続けてきたのだ。

 だが、自分と全く同じ心疾患を持つ著者が綴った自叙伝『キミがいるから私は HEART HANDI LIVE』(近藤姫花/幻冬舎)に出会い、考え方が少し変わった。心疾患を「キミ」と呼び、味方だと捉え、前向きな日々を送る著者の生き方が心に染みたのだ。

心疾患と生きている私のことが かわいそうに見える人がいたら この本を手に取ってもらえたことを嬉しく思う。私の鮮やかな世界には 普通ではないから出逢えた幸せが、たくさんあるのだ。

 笑顔の日ばかりではなかっただろうに、自分が歩んできた道を「幸せ」と表現する、著者。彼女が綴る言葉は障害の向き合い方に悩む人を勇気づけ、健常者には障害の捉え方を変えるきっかけを授ける。

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単心房単心室が判明…「普通」でなくてもいいと思えるまで

 著者は、産まれてすぐ心雑音が発見され、「単心房単心室」であることが判明。単心房単心室とは本来2つずつある心房と心室がひとつずつしかない心疾患。さらに、著者は脾臓がなく、免疫力が弱い「無脾症候群」も患っていた。

 いずれの病気も、現代の医学では根治が困難。そこで、単心房単心室の最終手術である「フォンタン手術」を目指すべく、1歳になる前に「グレン手術」が行われた。

 手術は無事成功。だが、術後に風邪から敗血症を患い、命の危機に。それを乗り越え、3歳の頃に目標であるフォンタン手術を受けるも、術後、異常血管が育ってしまい、再手術となる。

 小学4年生の頃には弁形成術を受けたが、直後に不安定な状態となり、再手術。5度の手術を経て、頻脈発作(運動をしていないのに急に脈が速くなる症状)はあったものの、健常者とほぼ変わらない生活を送れるようになった。

 だが、学校生活の中で、マラソン大会に参加できなかったり、体育は見学が多かったりするなど、同級生と同じようにできないことがもどかしく、心疾患が自分を普通から遠ざけていると感じる機会が増えていく。

 その歯がゆさは、中学進学後も続いた。

姫花ちゃんは普通じゃない、心臓に病気があるからかわいそう、そんな風に思われるのでないか、思われているのではないかといつも気にしていた。キミの手を振り払って、普通だと証明したかった。

 だが、自分を特別視しない友人の理解とサポートによって体育に参加し、高校2年生の頃に主治医から頼まれて心臓病セミナーでスピーチをするなど、色々な人

と関わりながらさまざまな経験をする中で、心疾患を持つことへの思いが少しずつ変わっていく。

 持病を「キミ」と呼び、持病を受け入れられるようになっていったのだ。

キミは相変わらず特別だけど、同じようにみんなが特別で、私もまた、キミ以外の部分でも特別だ。

 そう思えるようになった著者はブログで持病を発信。自身と同じくハンデを持つ子と社会を繋ぐ架け橋になりたいと考え始めた。

普通になりたかった。けれど、私にもできること、私にしかできないことを見つけて、普通ではなくていいのだと気づいた。普通ではない人を当たり前のように理解し合えるのが、社会の「普通」になればいい。

 そう語る著者の思いが胸に染みる本書には、障害を特別視せずに配慮する周囲の温かい姿も多数描かれており、健常者にとっても学ぶところが多い。

 生徒が使用することができないエレベーターを著者が使用する際、特別視されないよう、友達と乗ることを許可した高校の学年主任や、心疾患を病気ではなく、ハンデだと言ってくれた主治医など、著者の心を気遣った配慮をする大人たちの姿は必要以上に障害を特別視しないことの大切さを教えてくれるのだ。

 当人が難しいことだけサポートをしたり、対策を考えたりする。障害者への配慮が、そんな風に変わっていけば、暗黙の「かわいそう」を感じ取らず、前向きな人生を歩める当事者は増えそうだ。

キミがいるから 私は普通ではない。手術や入院を何度も繰り返して 周りとの違いをたくさん経験して そのたびに、私はキミに彩られている。キミは今までがそうであったように きっとこれからも私を振り回すだろう。でも、それでいい、と思う。キミと生きていくことは変わらないし、私の代わりはいないから。

 そんな力強い言葉を綴る著者の半生を知り、普通ではあれなかった自分を愛してほしい。

文=古川諭香

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