一風変わった教師が“倫理”の授業を通して生徒と対話。山田裕貴主演でドラマ化もされた大ヒットマンガ『ここは今から倫理です。』の魅力

マンガ

公開日:2023/1/11

ここは今から倫理です。
ここは今から倫理です。』(雨瀬シオリ/集英社)

「それでは倫理を始めます」

 主人公は不思議な雰囲気を持つ倫理の教師・高柳。選択授業の初日。高柳は生徒たちに、倫理とは、“宗教とは何か”、“より良い生き方とは何か”、“幸せとは何か”。”ジェンダーについて”、”いのちとは何か”を扱う学問であると話す。倫理の授業を選択した一見普通の生徒たち。その実さまざまな悩みを抱えていて、高柳は「倫理」を通じて彼らと向き合い、対話をしていく。

ここは今から倫理です。』(雨瀬シオリ/集英社)は2017年に連載をスタートした青年漫画だ。現在は7巻まで発行され、累計発行部数は170万部を突破。 2021年には山田裕貴主演でドラマ化もされている。

 筆者は前作『ALL OUT!!』(講談社刊行のラグビー漫画)からの雨瀬シオリファンなのだが、いきなり集英社で連載が始まったのでびっくりした記憶がある。雨瀬シオリ先生の迫力ある画面構成、高い画力、そしてキャラクター造形の幅広さといった強みが存分に発揮されている本作。あっという間にヒットを飛ばしたのも納得である。

advertisement

倫理のイメージが変わる本作

 生徒たち(時には教師)は日常を過ごすなかで、さまざまな問題や鬱屈に直面する。それを知った高柳は、彼らにそっと倫理の言葉を伝えていく。

 日常的に聞く倫理に関する言葉としては「倫理観」が一番多いと思う。筆者にとって倫理とは、難解で説教くさいもの、というイメージがあった。しかし高柳の伝える言葉たちは、難しいけれども決して押し付けてこない。寄り添うように作中に「置かれて」いて、それでいて今その言葉が必要な人のところにきちんと届くような印象を受けた。

 筆者の場合は2巻に登場するSNSに夢中な女子に説かれるペルソナ(人格)の話が印象深かった。ペルソナとは、いわば仮面。人は生きる中で「娘」「学生」「男」「恋人」さまざまな役割を担い、それぞれにふさわしい仮面をかぶっている。ローマ時代の哲学者エピクテトスの言葉を引用した上で、「SNSのいちユーザー」としてのペルソナもあって良いと諭す。ただ、学校の生徒としてのペルソナを無視しては良くない。仮面の下の自分自身を常に磨くことをすすめる。大切なのは自分を見失わず、ペルソナを使い分けることを自覚することだという。背筋が伸びる話であり、現代人皆が覚えておくべきことかもしれない。

 感銘を受ける一方で「たかやな先生、ずるい」とも発作的に思ったのである。高柳は異様に雰囲気と色気のある先生だ、こんな風に問いかけられていいえと言うのはだいぶ難しいぞ!?と布団の上でひとり、ゴロンゴロンと転がった。

 雨瀬シオリ作品は表情が見事なので、皆さんにも読んで「うおお」となってほしい。

生徒と教師の関係

 この作品は基本的に高柳の赴任する高校での群像劇で構成されていて、生徒たちの豊かな個性もみどころだ。顔立ち、雰囲気、持つ小物や制服の着こなしに至るまで、似ている子はあれど、同じ子はひとりもいない。抱える悩みや苦しみはさまざまで、ぞっとするほど重い話題も登場する。

 最終的に生徒の悩みが解決できたケースも、日常にわだかまりが残る場合もある。それでも彼らは、高柳との対話を通して確実に前に進む。高柳は、常に正しさ、「善さ」を求めながら彼らと向き合う。その中で彼は何度も壁にぶち当たる。落ち込み、苦しむ弱さも持ち、時にはうまくいかず拗ねることもある。彼自身も生徒との対話に影響を受けているのだと思う。

 ちなみに、高柳は生徒側にも回る。7巻では、先ほど筆者がずるいと言及した「この人自分の顔の良さや色気を武器だとわかっているだろう問題」を高柳の恩師(先生)がズバンと切り込む。初見で読んだときは思わず清々しい笑みが浮かんでしまった。

倫理の授業をぜひ受けてみてほしい

 最新刊7巻のラストでは 、高柳は、新たな高校に赴任する。今度はどんな倫理の授業をするのか、高柳のまだまだ隠されている過去は明らかになるのか、引き続き楽しみにしている。

 個人的には高校生のときに出会いたかった漫画なのだが、大人にも絶対に刺さるはずだ。著者は折に触れ、コミックスを開いて倫理の授業を受けに行っている。ぜひ、一度のぞいてみてほしい。もしかしたらあなたの人生を救う思わぬ言葉が待っているかもしれない。

文=宇野なおみ