やさしい魔法使いと黒猫がひらくほっこりカフェで「幸せ」のあかりを灯す。村山早紀氏の新作は海外のおとぎ話のような連作短編ファンタジー

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/25

不思議カフェNEKOMIMI
不思議カフェNEKOMIMI』(村山早紀/小学館)

 冬の日は、あたたかな飲み物を用意してほっこり静かに読書をする…そんな本好きには魅力的な時間に、あなたならどんな一冊を選ぶだろうか。ミステリー、SF、趣味の本…いろいろあるけれど、寒いときは心の奥までじんわり温めてくれる本もいい。村山早紀さんの『不思議カフェNEKOMIMI』(小学館)は、そんなときにぴったりな連作短編ファンタジー。やさしい魔法使いと黒猫が、ひだまりのようなぬくもりでこわばった心を静かにゆるめてくれる。

 毎日こつこつと働き、自分の時間には本を読み、紅茶を淹れて音楽を聴く。地味だけれど、つつましく生きてきた律子は、このところ頭痛に悩まされていた。ひときわ痛みがしんどいある日、会社の帰り道に瀕死の黒猫を見つけてなんとか家に連れ帰るが、頭痛はひどくなるばかり…実は彼女はその夜「死ぬ運命」にあったのだ。だが、心優しい彼女をあわれんだ魔神は、律子を出会ったひとびとを救い、幸福にするための力を持つ「善い魔法使い」に変え、黒猫メロディも彼女の相棒となるべく復活させる。人ならぬ身となり、黒猫メロディとともに空飛ぶ車に乗った律子は、生きているうちはできなかった楽しい旅に出る――。

 タイトルにある「不思議カフェNEKOMIMI」は、律子とメロディが魔法の力を借りて旅先でひっそりと開く素敵な空間のこと。そこで出会った面々をお客様に、心のこもったお料理やお茶をふるまって、それぞれの心に「幸せ」のあかりをほんのりともしていくのだ。お客様は人だけでなく、雛人形や古狸、小さな社に住む女神など「妖怪」的な存在の姿もある。それらは極めて「日本的」な存在のはずなのに、なんだか外国のおとぎ話の世界のような不思議な透明感があるのも面白い。

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 著者の村山早紀さんは、『桜風堂ものがたり』(2016年)と『百貨の魔法』(2017年)が、2年連続で本屋大賞にノミネートされた実績があり、ファンタジーの名手として知られている。本作については「地球を救ったり、闇の力と戦ったり、そういう壮大な物語ではありません。時の狭間の中で忘れられてゆくような、忘れられてきたような、小さな祈りや命をひとつひとつ大切にすくい上げてゆく、そんな物語です」とあとがきで綴っているが、著者のやさしく丁寧なまなざしが心地よく、ゆっくり静かに味わいたくなる物語だ。

 なお『レミーさんのひきだし』『王さまのお菓子』の人気イラストレーター・くらはしれいさんによる装画・挿絵も10点を超える数が掲載されており、やさしさあふれる美しいイラストは目にもうれしい。さらに黒猫メロディ、ペルシャ猫の魔神をはじめ物語にはたくさんの猫たちも登場し、猫好きにはたまらない世界でもある。

 魔法使いになった自分も面白いけれど、死んでしまった自分も好きだった――魔法使いに転生(?)したことで、律子は平凡に思えていた自分の人生も「悪くなかった」とあらためて思う。そんな律子の気づきは「生きていること」のかけがえのなさを教えてくれる。きっと自分の「ささやかな生」にも意味がある――そう信じさせてくれる、小さな物語たちだ。

文=荒井理恵

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