「まさか刺客なのか!?」元殺し屋の陰キャ男子に近づくギャルJKの目的は!? 疑心暗鬼が止まらない、期待のラブコメ漫画

マンガ

公開日:2023/2/22

この復讐にギャルはいらない
この復讐にギャルはいらない』(まの瀬/白泉社)

 オタクに優しいギャルなど存在しない。もしいればそれは刺客なのか?

この復讐にギャルはいらない』(まの瀬/白泉社)は、陰キャ男子高校生と陽キャのギャルJKとのラブコメ漫画である。

 この組み合わせのラブコメは少なくない。しかし本作は少々変わったところがある。それは主人公の陰キャ男子が、かつてガチの殺し屋だったということ。

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元殺し屋の少年の心には復讐の炎とドキドキが同居する

 教室の隅が定位置の地味な男子高校生・橿原(かしはら)ノゾミ。彼はある日、クラスのカースト上位のギャル・新宮(しんぐう)レオナを不良から助けた。それをきっかけに、なぜかグイグイと距離を詰められることに。

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 橿原は2つの理由で疑心暗鬼になる。まず1つ目の理由は自分のような陰キャが優しくされるわけがない、オタクに優しいギャルなど存在しないと考えたから。そして2つ目の理由は、新宮さんが自分の命を狙う刺客なのではないかと疑いを持ったからだ。橿原は小さいころ何者かに親を殺され、人の温かみを知らずに生きてきた元殺し屋だったのだ。

 今は自分を使い捨てた“ファミリー”という組織を裏切り、名前と戸籍を変えてひっそりと生きていた。そのため非常に疑い深くなっている。

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 新宮さんは挙動不審気味な橿原の言動を面白がってますます絡んでくるようになり、橿原は戸惑いながらも、意識するようになっていく。

 読者は「ほっこり勘違いラブコメか」とも思いつつも、物語の根底に橿原の親の仇への復讐心があるのに気づく。作品タイトルも怪しい。さらに彼が恐れていたファミリーの刺客も登場する。ただちょっとトボケたキャラクターではあるのだが……。

 ひとつ書いておきたいのが、1巻は大変“いいところ”まで収録されているため「続きが読みたい!」となるのは必至なので心してほしい。

オタクに優しいギャルは陰キャを照らし続ける

 本作は“笑い”もポイントになっている。突然レトロネタやコナン君ネタをぶっこんでくる軽妙なセリフのやり取りは、読んでいて思わず吹き出してしまう。繰り返し描かれる橿原の陰キャムーブと、このテンポのいい“笑い”が人の生死をかけたシリアスな展開を巧妙に隠しているようにも感じる。考えすぎかもしれないが……。

 ただシリアスだろうとギャグだろうと、本作がニヤニヤしてしまう男子高校生とギャルJKとのラブコメなのは間違いない。

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 ここで『僕の心のヤバイやつ』(秋田書店)の作者・桜井のりお先生が、本作コミックスの帯に書いた「我々はなぜ固く閉ざした心の隙に入り込んでくるギャルが好きなのか」という文について考えてみた。

 なるほど、ときにギャルは無遠慮に心身に絡んでくる。だがそれは陰キャにとっていやではないのだ。なぜなら陰キャも好んで暗くいたいわけではなく、できれば明るく素直に楽しみたいからだ。

 新宮さんのようなギャルは、そんな心の闇を照らしてくれる。それが理想だから、私たち読者はギャルと陰キャのかかわりをみていたくなる。

 本作のコピーは「疑心暗鬼ラブコメ」だ。橿原が親の仇への復讐を考え、命を狙われている元殺し屋ということを端的にも表している。ただそもそも恋もラブコメも、疑心暗鬼から始まるのでは? とも思う。

 新宮さんが何者でも、何者でなくてもかまわない。かわいくて、優しくて、孤独で暗い少年に絡んでくれることにドキドキするのは間違いないのだから。

 シリアスになる可能性も残っているものの、注目は笑える会話劇とニヤニヤしてしまう2人の距離感だ。どうやらラブコメ界に、新たなスター作品が誕生しつつあるようだ。

文=古林恭

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