登録者数65万人超! 動画クリエーター・コウイチの人気小説「スピンオフな町」が単行本化!

文芸・カルチャー

公開日:2023/2/28

計画書
計画書』(コウイチ/KADOKAWA)

 雑誌『ダ・ヴィンチ』で約1年にわたり連載されてきた人気小説「スピンオフな町」がついに単行本化される。その名も『計画書』(コウイチ/KADOKAWA)。作者は、登録者数65万人超のYouTubeチャンネル「コウイチTV」で知られる動画クリエーター・コウイチだ。彼の生み出すシュールかつ独特な世界観の動画は、多くの人を惹きつけてやまないが、それは小説でも同様。本作で描かれるのは、日常の中の強烈な違和感。連載時からタイトルも構成も一新されたこの作品は、未読の人はもちろんのこと、今まで連載を読んできたファンにもオススメ。一度読んだら、もう一度最初から読み返したくなる、不思議で不気味で、それでいて何だか笑わされる新感覚ストーリーなのだ。

 舞台はどこにでもある平凡な町。その町で暮らす警察官・金崎は、ある時、酔った勢いで川から飛び降りたことをきっかけに、どうやら未来に飛ばされてしまったらしい。そこで出会った新米警察官・若松とともに廃墟で見つけたのは、表紙に「計画書」と書かれた一冊の本だった。

 一度入ったら出られないサウナ、ショッピングモールへの爆破予告、同じ内容を延々繰り返し流し続けるラジオ番組…。その本には、日々の暮らしの中で巻き起こる不可解な出来事がいくつも描かれている。私たちはそれを2人の警察官とともに読み進めていくことになるのだが、どれも身近に感じさせられる物語で、だからこそ恐ろしい。いつもの見なれた景色が突然グニャリと歪んだような、無理やり脳を揺すられたような気分。おまけに、この町ではこの物語に酷似した事件が実際に起きているらしい。だが、現実の事件はそれらの物語とは「結末」が少し異なっているようで……。一体この本は何なのか。この町で何が起きているのだろうか。

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 物語を読めば読むほど、混乱してしまう。点と点がつながりそうでつながらない。まるで迷路の中だ。意外な展開ばかりが続き、次に何がくるか予想できない。得体の知れないものに触れているという恐怖と興奮。怖いもの見たさ、ページをめくる手が止まらなくなっていく。

 ふとした出来心で一歩踏み外してみれば、日常の景色は一瞬にして変わってしまうのだろう。この作品内の世界に限らず、もしかしたら、私たちの生活もそうなのかもしれない。一歩間違うだけで、異質な世界が私たちを飲み込んでしまうのかも。この本を読むと、そんな確信めいた思いがふつふつと胸へと湧き上がってくる。そして、結末まで読んだ時、不思議な世界を彷徨い続けてきたというのに、意外にも前向きな気分になれる。もう一度最初から、この作品を味わいたくてたまらない。すべてを知った上で、もう一度読み通してみたくなることだろう。

 フォントや、本のイラストの色の違いの意味にも注目。隅々までファニーなこの作品は、きっとあなたの日常をも侵食していく。当たり前と思っていた日常が根底から揺らいでいくこの感覚を、是非ともあなたも体感してみてほしい。

文=アサトーミナミ

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