自然だと思っていたリアクションにはルールがあった! 何気ないおしゃべりの中に隠された会話のメカニズム

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公開日:2023/3/24

会話の科学
会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』(ニック・エンフィールド:著、夏目大:訳/文藝春秋)

 会話をしているとき、私たちは「うんうん」と相槌をうったり、「え?」と聞き返したり、「あー」と言いよどんだり、言葉ともつかないような短い音声で反応したりする。自然なリアクションすぎてあらためて考えることはあまりないけれど、そもそもどうしてこういう音で反応するのだろう? 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』(ニック・エンフィールド:著、夏目大:訳/文藝春秋)は、そんな私たちの会話に対する「当たり前」の感覚に、一定のメカニズムを発見してくれる興味深い一冊。いわゆる言語学の本なのだが、通常は「書き言葉」の文法や語法に注目する言語学にあって、「話し言葉」、しかもランダムな「何気ない会話」に注目するのだ。

 たとえば、私たちの会話には以下のような「暗黙のルール」があるという。

・誰かに質問をされたら答えるべき
・答えられないとしても、何かしら応答すべき
・自分以外の誰かに向けられた質問には答えるべきではない
・相手にこれから話すという予告をすると、予告を受けた側は続きを促す信号(「何?」「なるほど」「それで?」など)を送らなくてはならない
・予告した側は、しばらくの間、遮られることなく話をすることができる……etc.

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 上記はルールの一部だが、「これって会話のマナーでは?」と思う方もいるだろう。だが本書によれば、これらは「会話という集団活動を円滑にするためのルール」とのこと。実際の会話を細かく調べていくと、こうしたルールが「無意識」に徹底されていることがわかるし、そうしたルールには必要とされる理由があるというのだ。

 さらに会話を調査すると、興味深い数字にもでくわすことになる。たとえば会話中には話者が度々変わるものだが、その交替のスピードは瞬きよりも速い0秒に近いというのだ。本書ではオランダ語や英語、ドイツ語と欧米圏での電話での会話について大規模調査を紹介しているが、いずれも200ミリ秒(0.2秒)での話者交替が一番多くなっている。こうした傾向は世界各地に共通するのかを確かめるべく、Yes/Noで質問に答えるレスポンスの速さ(質問の終わりから応答の始まりまでに経過した時間の平均値。質問と応答の間隔がなく、重複もない場合を0とした場合)を、欧米系にプラスして日本語、韓国語、ラオ語など計10の言語を対象に測ったところ、なんと一番レスが早かったのは日本語でわずか7ミリ秒(0.007秒)というから驚きだ。ちなみに英語が236ミリ秒(0.236秒)と調査対象の中の中位となる。

 そのほか、会話中の沈黙が1秒を超えると問題があると察知したり、「あー」「えーと」などの言葉が会話の流れを制御する働きをしたり……私たちの「会話」は結構すごいメカニズムの宝庫らしい。本書でそうした事実を知るだけでも単純に新鮮だし、「意識して会話の先を読む」だとか、何かしら日常生活に役に立つテクニックが見つかりそうな気もする。

 それにしても、会話というものをメカニズムという観点で見ていると、今話題になっている「ChatGPT」などAIの進化と深い関係があるようにも思えてくる。機械が私たちのよき話し相手となり、気の利いたツッコミを秒速で入れてくる……そんな日は近いのかもしれない。

文=荒井理恵

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