彼女に自死された男と、その彼女の夫だった男、ふたりの「不能」の行く末は…?

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/29

不能共
不能共』(草森ゆき/KADOKAWA)

 草森ゆき著『不能共』(KADOKAWA)が発売された。とあるひとりの女性が引き寄せた、男性ふたりの奇妙な関係から始まるBL小説である。

 物語は、とある女性、加奈子が自死したことから始まる。加奈子は、朝陽大輝という男の彼女であり、清瀬隆という男の妻であった。加奈子は既婚者であることを隠して、不倫をしていたのだ。そのことが彼氏の朝陽にバレて、別れを切り出され、そして彼女は朝陽の前で自死したのだった。

 葬儀後、朝陽のもとに清瀬が訪れる。妻の浮気相手の家に乗り込んでくる、夫。そう考えれば修羅場なわけだが、清瀬はむしろ朝陽に対して友好的な態度で接してくる。加奈子の話ができるのは朝陽だけだから、と毎日家を訪れては手の込んだ食事まで作る始末。とても不気味である。朝陽は毎回目の前で作りたての食事を全て捨ててしまうが、清瀬はそれを気に留める様子もなく、また次の日も同じように家に来て食事を作る。

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 朝陽は、苛立つままに衝動的に清瀬に暴力を振るうが、清瀬はそれもまた全て受け入れてしまう。妙に暴力に慣れている朝陽と、妙に殴られ慣れている清瀬。あまりにバイオレンスな展開に読んでいると苦しくなってしまうが、しかしどこかでふたりがピッタリとハマっているような、もう離れがたい関係になっているような感覚もある。

 清瀬の「加奈子を死なせた朝陽大輝が大嫌いだ。でも彼は、初めて不能の理由を笑わなかった他人だ」という独白が、清瀬の朝陽に対する感情の変化を表している。

 そして、清瀬が「不能」である理由、そして加奈子との関係を知っていくにつれて、朝陽の中にも複雑な感情が芽生え始める。

 肉体的に不能な清瀬と、精神的に不能な朝陽。ふたりの関係はあまりに痛々しいが、その痛みが癒してくれる苦しみもあるだろう。お互いに不能な部分があるからこその分かり合えなさをもどかしく感じる一方で、だからこそ一緒にいられる気安さや通じ合える部分もあるのかもしれないと、ふたりを見ていると思う。

 どう考えても幸せになれなそうな物語の皮切りだったが、ふたりの感情が動いていくにつれて様子を変える。あまりに不器用なふたりの不能な男共、そんな彼らの行き着く先をぜひ見届けてほしい。

文=園田もなか

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