「美食」でインバウンドと地方創生を両立! 『東京いい店うまい店』編集者が提言する『ニッポン美食立国論』

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公開日:2023/7/18

ニッポン美食立国論
ニッポン美食立国論』(柏原光太郎/日刊現代)

「地方創生」という言葉が世に出て久しい。様々な手法で地方活性化に向けた取り組みがなされている昨今だが、思うように結果が出ずに悩んでいる自治体も多いと聞く。そんな中、「食」に焦点を当て、インバウンドビジネスも見据えた上で、具体的な提言を示す書籍が刊行された。柏原光太郎氏による『ニッポン美食立国論』(日刊現代)である。

 本書は、インバウンドビジネスにおけるビジネス書的な要素のほか、全国各地の「美食」を誇る名店が多数紹介されている。食材や料理の写真も盛り込まれており、各店舗のシェフのこだわりや想いにも詳細に触れているため、食通の方にとっても読み応えのある一冊であろう。

 著者自身、「食」に目がないフーディーの一人である。フーディーとは、美味しいものを求めて世界中を旅する人たちのことで、経済的に余裕のある人が多い。著者の場合、父親が食いしん坊だったことから、子どもの頃より食に興味を抱いていた。そのため、食に関するエッセイを多く残している吉田健一氏や、子母澤寛氏の随筆を愛読していたという。新卒で文藝春秋に就職し、2年目に食評論家の山本益博氏の連載を担当。それを契機に食に関連する仲間が増え、『東京いい店うまい店』(文藝春秋によるグルメガイド)の編集にも携わる。このような環境に加えて、深い探究心と圧倒的な行動力を持つ著者の「食」に対する洞察は、深く鋭い。

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 著者は、「日本を美食で誇れる国にしたい」と主張する。そこには、インバウンドビジネスを間口として、「ガストロノミーツーリズム(美食旅行)」や「ラグジュアリーツーリズム(富裕層旅行)」を呼び込み、地方創生につなげられる可能性が大いにあるからだ。

“「素晴らしい絶景で、ここを発見してしまったからにはやるしかないと思いました。たしかに交通は不便です。だからこそ、わざわざ僕の料理を食べに来ていただける場所にしたいのです」”

 これは、数年後にオーベルジュを作るために奔走している若いシェフの言葉である。著者が本書を執筆した目的は、このシェフの想いと深く重なる。特定のお店で食事をする。それだけのために「その土地を訪れたい」と思わせるレストランが、この数年着実に増えてきている。その数は今後も増えていくであろうと、著者は確信にも似た予感を抱いている。

 2009年、日本政府は外国人旅行者の日本への誘導を本格化させるため、「2020年までにインバウンド(訪日外国人数)2000万人」を達成することを目標とした。コロナ禍により一時はインバウンド数が著しく低下したものの、コロナが5類に引き下げられた2023年、外国人旅行者の数は増加傾向にある。マスクの着用も緩和され、飲食産業も動きはじめていることから、これまでコロナ禍による規制に押し込められていたフーディーたちの動きも活発化している。

“まずはフーディーを取り込み、そこから幅広い層へ訴えかければ、裾野は広がります。そういう意味で、フーディーに日本の食のよさをPRしてもらうことは、日本の地方創生にとって大きな意味をもたらすのです。”

 著者がこのように主張するのは、いくつかの理由がある。フーディーは拡散力の高い人が多く、あるお店が拡散された場合、世界中から多くの人々がそこを訪れる可能性を秘めている。また、前述したようにフーディーは経済的に豊かな人が多く、「美食を楽しむ」ことを目的としながら、お店の周囲にある宿や観光施設にも足を運んでくれる。そうなれば、「食」を起点として地方に人を呼び込むことが可能となるのだ。本書では、そのために必要な動きや戦術について、数々の成功事例を挙げながら具体的に提言している。

 本書で掲げる「ニッポン美食立国論」には、“とんがったひとりの「ヘンタイ」”の存在が必要不可欠であると著者は語る。「ヘンタイ」とは、既存のやりかたにとらわれないイノベーターのことを指す。そういう人が発見した新たな価値観を、フーディーなどの流行に敏感な層に拾い上げてもらえれば、そこから人々の地域に対する興味範囲は拡大する。その結果、多くの人が何らかの利益を得ることにより、地方、ひいては国そのものが潤う。

 地方創生の足がかりを掴めずにいる人や、インバウンドビジネスを模索している人、「食」に対する好奇心が強い人にとって、本書は刺激的かつ有用な一冊となるだろう。

文=碧月はる

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