みんな大好きポテトチップス「コンソメパンチ」味の誕生から、日本の食文化を考える

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公開日:2023/7/23

ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生
ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生 (朝日新書)』(稲田豊史/朝日新聞出版)

「コンソメパンチ」。この単語を見るだけで、口の中にあの味が広がる…気がする。スーパーやコンビニであの袋を見ると、匂いも味も補完できて、もはや買わなくてもいいか、と思ったりする(でも買う)。そう、カルビー「ポテトチップス」コンソメパンチ味の話だ。

 小学生のとき、友達の家で一緒にファミコンをしていると、友達が袋を持ってきた。袋を開けたときの香ばしい匂いと、濃厚かつ芳醇な甘じょっぱい味の衝撃を忘れられない。ポテトチップスをつまんだ指でコントローラーをベタベタにしながら「エレベーターアクション」で遊んだ。

 もはや日本人にとって“国民食”と呼んでも過言ではないポテトチップスを軸に「戦後食文化史×日本人論」を論じる読み応えある本がある。『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生 (朝日新書)』(稲田豊史/朝日新聞出版)だ。本書の内容は奥深く、トピックは多岐にわたり、新書として厚い。そこで本稿では、本書からポテトチップスの歴史のひとつとしてフレーバー(味)に着目し、コンソメパンチ味の誕生までを、ごく簡単に紹介したい。

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 本書によると、日本における国産ポテトチップスの元祖は、1950年に設立されたアメリカンポテトチップス社「フラ印(じるし)アメリカンポテトチップ」とされている。社名に「アメリカン」とあるが、会社を設立したのは戦後にハワイから帰国した日本人。ただ、このときのポテトチップスは、駐留米軍専用のビアホール、高級ホテル、一部の高級スーパーなどでしか扱われていなかった。つまり、高級おつまみである。現在の物価に換算すると、なんと1皿1000円程度もしていたという。

 時が経ち、12年後の1962年に湖池屋が、「湖池屋ポテトチップス のり塩」を1袋150円で発売。一気に、一般庶民が買えるおやつとなった。本書は、ポテトチップス発祥の地アメリカでの基本フレーバーが「塩」であるにもかかわらず、このときに登場したフレーバーが「のり塩」だったことが、その後の日本におけるフレーバー展開の運命を決定づけたと述べている。日本食文化に欠かせない、のり。つまり、最初から“和風”であった、というのだ。

「湖池屋ポテトチップス のり塩」発売以降、ポテトチップスの市場規模は順調に伸びた。そして、1975年、業界を揺るがせる巨人が参入した。9月に発売されたのは「カルビーポテトチップス うすしお味」。本書によれば、他メーカーが1袋120~150円で売り出していたところ、カルビーは90g100円という低価格で切り込んだ。結果、100円に値下げするメーカーも出てきたが、淘汰されていったという。

 ところで、本書はこのように綴る。おなか一杯食べられない時代には、すぐにおなか一杯になり、速くカロリーに変えられる甘い味付けが好まれる。しかし、食べるものに不自由しなくなってくると、人々は逆に塩味を好むようになる。日本における飽食の時代のニーズも相まって、しょっぱいポテトチップスがごく短期間で日本に定着したのだ、と本書は説明している。

 さて、満を持して1978年に発売されたのが、本記事冒頭でもふれた「コンソメパンチ」である。カルビーは「うすしお味」「のりしお」に次ぐ3番目のフレーバーとして世に出した。

 コンソメとは、フランス料理に由来する琥珀色のスープである。それがなぜ、日本で登場し、人気を博したのか。ちなみに、海外のスナックで肉系の一般的フレーバーといえば、まずはバーベキューらしい。また、西洋料理でコンソメは定番だが、海外でコンソメ味のポテトチップスは一般的でないそうだ。

 本書は、コンソメについて説明する。コンソメは、牛肉や鶏肉や魚などから取った出汁(だし)「ブイヨン」に野菜を加えて煮立てたもの。つまり、「コンソメとブイヨン」の関係は、「味噌汁と鰹出汁(かつおだし)」と同じである、というのだ。そして、コンソメパンチの原材料表記にあるのは、ビーフコンソメパウダーやオニオンエキスパウダー、…肉じゃがの「牛肉」と「玉ねぎ」である。日本人の出汁文化と相性がよいコンソメ味は、日本人にウケる土壌がすでにあったことから、大ヒットしたということだ。ちなみに、コンソメパンチの「パンチ」は、「パンチがきいている」意味の当時の流行語が由来だそうだ。そして、現在のコンソメパンチには、隠し味として「梅肉パウダー」が入っていると明かす。子どものとき、「コンソメパンチ」という西洋的なネーミングにも惹かれた私だったが、それ以上に味にノックダウンさせられたのは、日本の食文化の中で育ち、舌ができていたからなのか、と思うと、深く納得した。

 ポテトチップスを食べながら育った日本人は少なくないだろう。本書を読めばポテトチップスの見方が変わるだけでなく、戦後食文化史や日本人論への知識や理解も深められ、新しい価値観が得られそうだ。

文=ルートつつみ (@root223

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