「これが今まで隠していた私です」―初々しいカップルがお互いの性癖を理解する、ほっこりギャップ漫画『イジめてごっこ。』

マンガ

公開日:2023/8/5

イジめてごっこ。
イジめてごっこ。』(南文夏/白泉社)

 人の「性癖」というものは、よほど仲がいい間柄でもなかなか表には出せないものだ。別に、一人で楽しんでそれで済むのならいい。しかし、「誰かに叩かれたい」とか「こういう格好でプレイがしたい」といった、一人では完結しない性癖の場合は、人に言えない限り孤独のままである。

イジめてごっこ。』(南文夏/白泉社)の主人公ゆかは、重度な被虐願望を持っていて、誰かが暴力をふるわれるシーンに人知れず興奮するような女の子だった。

 ゆかには付き合って半年になる彼氏がいる。彼氏のまひろは、いつも優しくてあたたかい素敵な男性だ。ゆかはまひろといい関係を続けているが、一方で自分の性癖を言えないことによるもどかしさを感じてもいた。

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イジめてごっこ。
©南文夏/白泉社

 ちょっといい雰囲気になったときの、ゆかが言う「だめ」は言葉通りの意味ではない。むしろそこを強引に迫ってほしいのがゆかの本心だが、それを知らないまひろは「がっつきすぎた」と慌てて身をひいてしまい、ゆかは内心がっかりしてしまう。脳内では彼女の欲望通りにいじめてくる「黒まひろ様」が存在しており、欲求不満の彼女は彼との妄想にふける日々だ。

 普通の人だったら「おかしい」と思うような場面で興奮するゆかは、自分のことを「汚くて」「いやらしくて」「醜くて」「大っ嫌い」だと思ってしまっている。

 ゆかは誰かに自分の性癖を伝えるつもりも、それに付き合ってもらうつもりもなかった。しかし、ある夜、デートの写真をまひろに送ろうとした彼女は、黒まひろ様で妄想していたときの淫らな自撮り写真を誤って送ってしまい、結果的に全てがバレてしまうことになるのだった。

 どうせ気持ち悪いと思われるなら、と自分の趣味を伝えたゆかは、まひろの思いも寄らぬ返答に驚く。まひろから出てきた言葉は「気持ち悪い」でも「別れよう」でもなく、「おれが頑張っていいSになる」だったのだ。

イジめてごっこ。
©南文夏/白泉社

イジめてごっこ。
©南文夏/白泉社

イジめてごっこ。
©南文夏/白泉社

 ここから、ひと組のカップルの奇妙なSMチャレンジの日々が始まるのだった。

 まひろは宣言通り、その日から本やインターネットでSMについて調べるようになり、新しい世界に足を踏み入れた。最初は「見てるこっちが痛い」とひいてしまっていたが、ゆかと向き合い、彼女が喜ぶことを考え続けていく中で、彼なりの「いいS」の答えに近づいていくようになる。

 相手の性癖を理解しようとすることは、相手の嬉しいことを考え続けることだ。たとえそれが自分の価値観とは遠い、理解しづらいようなものでも、うまくできなかったとしても、向き合うことそれ自体が愛情なのだとこの作品を読んでいると思う。

 タイトルやテーマから、つい過激なラブコメだと思いがちだが、実際は二人の初々しいカップルのじれったい関係を楽しむあたたかい漫画である。まさかSMを扱う漫画で、こんなに胸がほっこりとするとは思わなかった。新たな世界に足を踏み入れたまひろと、念願のプレイが叶うゆか、二人がこれからどのようなSMを見せてくれるのかとても楽しみだ。

文=園田もなか

※この動画はセンシティブな内容を含みます。

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